第5話 ふたりの五傑

魔物討伐の配信をした翌日。


スタンは晴々とした気分で朝食をとっていた。


(思い通りにいかないアホ部下どもよりも、ボロカスにできる魔物の方が配信しやすいんだよな〜儲け儲け。)


なんとも悲しい心の声である。


そしてまた、思い通りにならない男により平穏は破られる。


「スタン様、また隣の領地との小競り合いが発生しました。いかがしますか?」


「まーたかよ。向こうの目的はわかるか?」


「どうやら宗教上の理由のようです。詳細は不明ですが、信仰に対する価値観の相違と聞いています。」


「となると一方的に制圧するのも問題か…仕方ない、もう少し調査を続けてくれ。ただし危害を加えてくるようなら、徹底的にわからせてやれ。ゲットー領を舐めるとどうなるか。」


「かしこまりました。」


アルスはそう言って立ち去った。




余談だが、スタンの治めるゲットー領はたびたび周辺の領地からちょっかいをかけられている。


しかし15歳の若さで領主となったスタンは領内を回ったり他領へ行ったりする時間もなく、地理感や地政学的な知識を得ないままに今に至ってしまった。


というわけで、なぜここまでちょっかいをかけられるのか、スタン自身もよくわかっていないのである。


「はあ、またかよ…片っ端からぶっ潰してやりてえとこだけどなあ…」


しかしスタンも転生前は平和な日本に住んでいた男。


無闇な暴力は避けなければならないという倫理観は今も残っていた。


「なんもなきゃいいけど…」


ひとり残されたスタンが我に返った頃、

当然のように冷めた朝食が、彼の心をさらに冷ましていくのであった。




————————————




ところ変わって領境。

アルスは例の小競り合いの事情を調査するため、現地を訪れていた。


「アルス様だ…」

「“五傑”が二人も…」


周囲の兵士たちがざわつく中でも、アルスは足を止めず指揮官の元へと辿り着いた。


「ボンド、状況を教えてください。」


「おお、アルス殿!遠路はるばるご苦労様であったな!ささ、こちらへ。」


「いえ、お気遣いなく。何が起きているのか、改めてお伺いできますか?」


「うむ。それがですな…」


ボンドはことの経緯を語りはじめた。


話が進むにつれ、アルスの表情が苦虫を噛みつぶしたようなものに変わっていく。


「つまり…」


「まあ、平たく言うとスタン殿のせいですな!」


「そうですか…」


豪胆に言い放つボンドの前で、アルスは遠き地の領主に思いを馳せ、雲ひとつない青空を仰いで嘆息するのだった。




————————————-




「えー、この度は一部の視聴者の方にご不快な思いをさせてしまったということで…誠に遺憾ながらここにお詫び申し上げます…」



ここはゲットー領、執務室。


現在そこでは、スタンの謝罪配信が行われていた。

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