第4話 先頭で戦闘

この日、スタンは珍しく執務室で書類仕事をしていた。


時折嫌な気配を感じて周囲を見渡すが、室内には秘書のエリスが無言で佇むのみ。


ハンカチで口元を拭っているのが若干気になるが、特におかしな点はない。


スタンはその度首を傾げながら書類仕事に戻る。


たまにはこんな静かな一日もいいな、と思うと、アルスに言われて渋々始めた書類仕事も、なんだか楽しくなってきた。


この時間が続けば、きっと山のような書類もすぐにこなせるに違いない。



バタン!!

「スタン殿!!」


黄金時間は終わった。


突如扉を開けて執務室に入ってきたのは、巌のような肉体に肉食獣の鬣のような赤い髪の大男である。



「…」



無視。

無視である。


スタンは知っていた。


この男の持ってくる話は、ろくなものだったためしがない。


「…?」


大男は、反応がないスタンに疑問を抱いたようだ。


しばしスタンを見つめていたが、踵を返して執務室を後にした。


「ふう…」


再び執務室に静寂が戻った。


このまま最高効率で仕事を進められると、スタンは改めて書類に向き直った。



バタン!!

「スタン殿!!」


また来た。



「さっきも見たわ!!

 俺なに見せられてんの!?」


「おお、先ほどもお気づきだったんですな!反応が薄かったため、なにか誤りがあったのかと思いましたぞ!まったくスタン殿はイタズラがお好きですな!!」


「…もういいわ…んでなんだよボンド」


スタンはげっそりした。


「ああ、そうそう!町外れの森に魔物が出たようなのです。討伐前に報告をと…」


「それ早く言えや!!行くぞ!!」


スタンは即座に立ち上がり、執務室を後にしようとするが、ボンドに止められた。


「スタン殿、その…私だけでも討伐はできますので…」


「バカヤロウ!配信のチャンスだろうが!」


スタンはそう言うと、執務室を飛び出して行った。


残されたボンドとエリスは無言で目を合わせ頭が痛むような仕草をしていたが、ため息をつくとスタンの後を追った。




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「うぃっすうぃっすー!

 スタン様だよー!

 今日は町外れの森に来てまーす!

 これから魔物狩っちゃうよ!

 狩って狩って、狩り尽くすよー!!」


「スタン殿!あまりお一人で先に行かれては困りますぞ!」


追いついてきたボンドの小言もなんのその。


意に介さないスタンは、ずんずんと森の奥へと足を運んでいく。


『グオオアアア』


かなり近くから魔物の鳴き声がする。


声の大きさからして、大物だ。


「お!いいねいいね〜!

 配信しがいあるわ!」


「スタン殿…」


やたらと強気である。


こうなってしまうと、もう手の施しようもない。


なんせ、魔物はもう目前である。


ガサガサッ


『グオオアアア!!』


いよいよ視認できる位置に魔物が現れた。


大猿と表現するのが一番近いだろうか。


身の丈は5メートル以上あるだろう。




「キタキター!みんな見とけよー?」


「あ、スタン殿ちょ、ま…」


ボンドがなにか言っているが、無視。


スゥ…


スタンが目を瞑り、両肘を引いた。


その間にも大猿はスタン目掛けて襲いかかってきている。


「セイッ!!」


大猿が目前に迫ったところで、スタンは右拳を突き出した。


しかしその拳は魔物に届いていない。


『グア?』


大猿も「何してんだコイツ?」という表情だ。


「フッ…」


スタンが踵を返す。

腹立たしいことに、ドヤ顔である。


ドオオォン!!!


『グアアアア!!!!』


突如大きな音と共に、大猿がくの字になって後方に吹き飛んでいく。


「スタンパンチは遅れて来る。

 さらばだ。」


大猿はその勢いで何本か木をへし折り、最後は岩に衝突し絶命した。


「みんな見たー?どんどん行くよー!」


「スタン殿…はぁ…」


さらに森の奥へと向かう、ご満悦のスタン。


ボンドとエリスは半ば諦め顔で、静かにその後を追うのだった。

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