第3話 特典の得点
わりと力を入れるつもりだった配信が無残な結果に終わり、スタンは自室のベッドの上で膝を抱えていた。
「はあ…おかしいだろ…俺のクソ小説でもこんな展開なかったぞ…」
スタンの口から、背景と不釣り合いな単語がこぼれる。
この中世ヨーロッパを彷彿とさせる世界で、“小説”?
彼の独白は続く。
「まあ、転生特典はでけえけど…なんか周りにやべえやつしかいねえのなんなん…」
周りが“やべえやつ”ばかりなのはスタンが助長している部分もあるのだが、それはさておき今度も怪しげな単語が。
“転生特典”?
徐々に想像できる範囲が広がってきたが、想像はあくまで想像に過ぎない。
想像ではなく事実を理解しようとすると、スタンの両親の死に際を振り返らなければならない。
———————————
「ファング様!マーヤ様!!」
「なんだあの光は!?」
「スタン様!!」
(ん…なんだ…?)
妙に周囲が騒がしい。
おかしいのはそれだけではない。
自分はここで何をしているのか、
そもそも自分は何者なのかも曖昧だ。
(思い出せ…俺は確か…)
ふわふわと漂う煙を捕まえるような、
それでいて、深く海に沈んでいくような。
少年はそんな捉えどころのない感覚で、
自らの記憶を手繰り寄せようとしていた。
パアアアアアアアア…
「そうか…俺は…」
光が徐々に弱くなり、やがて消える。
そこには、先ほどの少年がやや青白い顔でうつむき加減に直立していた。
「ス、スタン様…」
眼鏡の男が気遣いを見せながら近寄ってこようとしたが、少年はそれに構わない。いや、構うことができない。
「俺は父と…母を…失ったのだな…」
少年はようやく状況を把握したが、
彼を待っていたのは、絶望であった。
彼の足元に横たわる男女。
それが彼の父と母だった。
———————————
彼がこの時手繰り寄せた記憶は、2つある。
ひとつは当然、これまでのスタンの物。
しかしもうひとつは、全く異なる世界に生きた、月島 古としての記憶だ。
月島は地球という星の日本という国で育ち、そして死んだ。
ふと気がつくと光に包まれており、スタンの身体に入り込んでいたのだ。
この状況に対し、スタンはふたつの仮説を立てていた。
ひとつめは、月島がスタンの人生を乗っ取った説。
スタンの記憶は残っているが、人格は月島のものである。
周囲の反応を見るに多少の違いがあるようなので、別人であるとわかる。
かなり有力な説である。
ふたつめは、あの瞬間に前世を思い出した説。
両親の死の間際、謎の光がスタンを包んでいた。
スタンはあの光が何らかのトリガーとなって、前世の記憶を取り戻した可能性があると考えている。
しかし、そんなことがあってから、既に5年が経過している。
調査をしようにも、残っているものは何もない。
両親ですら、灰になってしまったのだ。
スタンはこのふたつの説のどちらが正解であろうと、どうでもいいと思っている。
ただ、しかし。
スタンはひとつだけ不服に感じていることがあった。
「普通、転生って神とか女神とかに会わないか?いきなりハイ!スタンだよ!ってなんねーだろ…」
そう、彼は気づいた時にはスタンであり、月島でもあった。
そのため両親の死という大事件にも関わらず、スタンは衝撃が少なくて済んだとも言えるのだが。
「まあそんなこと言っててもしょうがねえか。つーかこの5年で身に染みたわ。
俺は配信に生き、配信に死ぬ。そのために…やっぱアイツらしばくしかねえなあぁ!?」
冷静になったかと思えば怒りがぶり返してきたらしい。
やはり最も“やべえやつ”なのは…
「スタン様、声が大きい。」
そこに、エリスがノックも無しに入室してきた。
「勝手に入ってくんじゃねえぇ!」
「私は、秘書。
領主と秘書の間にノックは不要。」
「ダウトぉー!!んなわけねーだろあほんだら!!」
「スタン様の罵倒…甘じょっぱい…」
「そこに独特な感性いらねーんだよなあ…」
こうして彼の日常は刻一刻と消費されていくのであった。
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