第2話 背信と配信

「うぃっすうぃっすー!

 スタン様だよー!

 今日はなんと!特別に俺様の部下たちを紹介しま~す!」


この胡散臭い上に鬱陶しいテンションの男は、スタン・G・ゲットー。


ゲットー領の領主にして、誰が観ているかわからないにもかかわらず自分の映像を配信し続ける変人である。


朱に交われば赤くなる。


類は友を呼ぶ。


古今東西似たような表現は尽きないが、

ゲットー領においてもそれは然りである。


今日も少年の、色褪せた時間が幕を開ける。


「まずは一人目の~!アルス!!

 こいつはまあまあ顔も悪くない!!

 俺のイチ押し!!」


銀髪に眼鏡の華奢な男が紹介された。


誰が見ても整った顔立ちをしており、

街中を歩けば、道行く女性はみな

振り返るだろう。


「スタン様。これは女児向けの放送なのでしょうか?

 そうでないなら、私は失礼します。」


眼鏡の位置を直しながら画角から外れるアルス。


女性の視聴者が今後街中で振り返ることはないだろう。


「あー…ん~、イチ押し取り下げな!

 次、ボンド!」


「スタン様、ボンドは岩で作った訓練器具にご執心です。」


「今日は5人とも集まれっつっただろうが!!あのクソマッチョ…しばく!」


どうやら2人目にして欠席者が出たようだ。


どうにも締まらないこの映像を、

視聴している者はいるのだろうか。


しかしここで、視聴者の関心を集められそうな要素がひとつ。


「スタン様~?筋肉バカがいないという事は、次は私の番ですか~?」


現れたのは、金髪碧眼の女性。


キリっとした目つきに鼻筋の通った顔立ち。


すらっとした長身だがメリハリのある体つき。


“美”を体現したようなその女性は、スタンに声を掛けるとともに腕に絡みついた。


「あ、ああ…3人目はシーラだ…」


世の男性が一堂に会してせーので嫉妬しそうな場面であるが、スタンの顔はなぜかひきつっている。


「あら、ちゃんと紹介してくださいな。

 こんにちは~スタン様の妻のシーラです~」


「嘘つけ!いっつもへばりついてきやがって!」


どうやらこの3人目も一癖ありそうだ。


「あ~ん、スタン様ったら~。

 もう、ゆうべはあんなに盛り上がったのに~」


「お前の追い出しでな!夜這いってのはコソコソやるもんなんだよ!

お前みたいに正々堂々正面突破で寝床にくるのは夜這いってレベルじゃねえ!!」


「這ってませんからね~」


「やかましいわ!!」


スタンの気苦労がしのばれる。


大きく手を広げて深呼吸をして。


なんとか息を整えたスタンの視線の先には、四人目の部下がいた。


いるのだが…


「おい、ドッチョ。」


「はいな!ワシの番ですかな?スタン様。」


ドッチョと呼ばれた小柄の老人は、

顔を隠していた。


いや、顔が隠れていた。


「てめえその桃色の布はなんだ。」


「スタン様、これが何かわからないと?

 まだまだお子様ですなあ」


「そういう意味じゃねえ!!

 パンツかぶってるじじいの映像なんざ

 世に出せるわけねえだろがああ!!!」


もはや、わけがわからない。


ただ、事実としてドッチョはパンツをかぶっていた。


しかもそのまま画角に入ろうと歩みを進めるので、スタンが必死に押さえる。


「ぐうう…このじじい重ええ…」


「なっはっは!スタン様もまだまだひよっこですなあ!」


「うるせええ!!!」


結果としてドッチョはスタンを引きずったまま画角に入り、

そしてスタンを引きずったまま画角から出ていった。


視聴者としてはパンツをかぶった老人が少年を引きずりながら通過したところを見せられた形である。


これにより得をしたものは誰もいない。


「はあ、はあ、くそ、こんなはずじゃ…」


「大丈夫。スタン様は完璧。」


膝に手をついて息を弾ませるスタンの肩に手を置いたのは、白髪の女性。


使用人が着るような服を着ているが、圧倒的な美少女。


彼女が5人目だろうか。


「完璧か…?ん~、まあエリスが言うならそうかもな!

 よし!最後の5人目を紹介しよう!

 エリスだ!」


「スタン様ちょろかわ…たまらない…」


「おーい、エリス~?」


エリスを呼ぶスタン。


それを聞き流すエリス。


結果として、エリスはそのまま自分の世界に入り続け、その後も画角に入る事は無かった。


誘い入れる形で手を上げたスタンは下げるわけにもいかず、

そのまま数十秒待った後、静かに手を下ろし画角から消えていった。


彼が肩を落として歩いた後には、雫が落ちたような跡が残っていた。

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