千春






「はよーす」

 次の日、学校に行った。

 いつもの三人は、少し驚く。やはり気まずい雰囲気が流れる。

「学校こねーし、返信もしねーし、なーにやってたんだよ!」

 大吾が言った。いつもの雰囲気に戻そうとしてくれた。

「大事なとこに行ってましたセンセー」

「学校より大事なとこってなんですか、千春くん!」

「さあねー」

「センセーにその口のきき方はなんだ!」

 怒る演技の大吾に笑う。綾人と拓海も笑った。まだ少しヒビは見えても、存外あっさりと普段のような雰囲気になった。

 勇気を出して墓参りをしてみても、美晴姉ちゃんの考えはもう一生わからないと認めてみても、劇的に何かが変わることはなく、日常は続いていく。三人の姿はまだ遠くに見えて、気づけば死というものに、囚われそうになる。

「こりゃ心配かけた罪償ってもらわんと」

「駄菓子奢るから許して」

「安すぎだろ!」

 いつもの声。いつもの笑い。

 いつもと違って少し遠い俺。

 その『いつも』も、少しずつ変わっているのだと思う。だからきっと、俺も。

「ノリのいい君たちなら許してくれると信じてる」

「その笑顔に何度も騙されると思うなよぉ!」

 綾人の腕が首に巻き付く。普段より少し、抵抗を弱めて、されるがままになってみる。

 怒る綾人。絡まれる俺。はやしたてる大吾。カウントをする拓海。

 当たり前のように、じゃれあいは笑いに変わっていく。

 俺らの笑い声は、細く、長く、空に響いていった。

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三十代で死にたい 燦々東里 @iriacvc64

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