後日談第五話 これからも悪女として
突然アルトが公爵家本邸にやって来たかと思えば、彼に抱き締められた私は、動揺すると共に全身が火照るのを感じていた。
だって彼があまりにも素敵だから。薄緑のタキシードを着込んだ彼は格好良さ過ぎて目に毒だ。長く見つめていたらどうにかなりそうなくらいに。さらにそんな彼に抱き締められてしまった。ドキドキしないはずがない。
でも悪女たる者余裕の態度を見せなければ。私は顔を見せまいとして彼の胸の中に顔を埋めながら言った。
「ふふっ、仕方がない人ですね。罰として初夜はたっぷり甘やかしてもらいますからそのつもりで」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そしてそのまま馬車に乗り込み、二人でウィルソン侯爵邸へ。
いつになく華やかに彩られた屋敷の中を進んで式場となるホールに向かう。先に参列者たちは入場している様子で、私たちは一旦二手に分かれて馬車道で乱れた身だしなみをもう一度整えてから入場した。
そこから始まった結婚式は、私にとってまるで夢のようだった。
幸せで輝いた時間。内心はどうであれ大勢の人々――下級貴族から王族まで本当にたくさん――から祝福されて私とアルトは結ばれ、私はエメリィ・フォンストでもエメリィ・アロッタでもなく正式にエメリィ・ウィルソンとなった。
式の後はディナーが開かれ、思う存分楽しんでから私たちは夫婦の寝室へ。迎えた初夜はとても素晴らしく刺激的で、きっと一生忘れることはないだろうと断言できる最高の一夜であった。
――しかし楽しみはまだ終わらない。
結婚式はもちろん人生のゴールであるはずがなく、彼との日々はまだ始まったばかりなのだから。
昼は穏やかに、夜は激しく毎日が過ぎていく。
新婚旅行で国を巡った。領地改革をした。やがて愛の結晶……子供もできた。
しかし当然ながらいいことばかりではない。私たちを疎む人物は多くいたし、アルトが侯爵位を継ぐと同時に侯爵夫人になるにあたって様々な障害もあった。例えばウィルソン侯爵家の没落を狙う別の侯爵家と対峙しなければならなかったり、なぜか王太子から頼まれて隣国ジェネヤードとの外交問題の一端を担わされ、ジルと思わぬ再会を果たしたりたり……。だが、話術や交渉、時には権力、そして夫となったアルトの力を借りるなど、あらゆる手段を用いてその荒波を乗り越えていった。
これからも私は悪女として貴族社会を生き続けることだろう。
ウィルソン侯爵家を――そして愛する人との幸せな時間を守り抜くために。
〜完〜
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます 柴野 @yabukawayuzu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます