後日談第四話 可愛くて悪女な花嫁 〜sideアルト〜
彼女――エメリィ・アロッタはきっとこの国で一番の悪女だ。
戦争は起こすわ、隣国に行って騒ぎどころではない騒ぎを起こすわ、パーティーに行っても男たちを掻っ攫わん勢いで堂々と存在するわ……。とんでもない人物だと思う。
しかし僕はそんな彼女に心底惚れてしまっている。そして今から結婚式を開こうとまでしていた。
馬車に揺られながら僕が目指すのはアロッタ公爵家本邸。
そこに現在エメリィは滞在していると現アロッタ公爵から聞き及んでいた。結婚の準備のため、ここ半月顔を合わせていなかった彼女。僕が現れたら一体どんな顔をするだろう、考えただけでニヤニヤしてしまう。
(でもエメリィの前でこんな情けないにやけ顔を晒すわけにはいかないだろう。しっかりしないと、しっかり……)
そう言い聞かせている間に馬車は公爵邸に到着。
事前に女公爵には知らせてある。門を叩くとすぐに侍女が現れ、続いてドタバタと慌てた足音が聞こえてきた。そして中から飛び出してきたのは。
「……アルト?」
薄紫色の花嫁衣装を纏った麗しき乙女だった。
普段は深い色のドレスを好む彼女だが、薄い色のものも想像以上に似合う。全身を包み込むようなふんわりとしたウェディングドレス、キラキラと輝くヴェールが彼女の真の美しさを際立たせる。
あまりの美しさに息を呑んだ僕は、しかしできるだけ冷静を装って言った。
「迎えに来たよ、エメリィ」
僕がそう言って手を差し伸べると、エメリィは嬉しそうに微笑む。
その笑顔が眩し過ぎて、思わず彼女の身を抱き寄せ、抱き締めてしまった。
「……もう。せっかくの花嫁衣装が着崩れてしまいますでしょう」
「ごめん。つい」
「ふふっ、仕方がない人ですね。罰として初夜はたっぷり甘やかしてもらいますからそのつもりで」
口では僕を咎めるような言い方をしつつ、結局笑いながら僕を許してしまうエメリィ。
僕は彼女を抱き締めながら心から思った。
―― ああ、僕の花嫁がとんでもなく可愛い。
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