第3話 はじめてのお友達


 

「聖女様はSクラス。ロザリア、貴女はGクラスです」


 突きつけられた現実は厳しかった。


「クラス分けは1年生の最初は、魔力順でAからGまでに振り分けられます。とりわけ高い魔力に加え、更に特殊能力を持つものがSクラスです。貴女は特殊能力はありますが、魔力はまったくないと聞いたのでこの先も入ることは叶わないでしょう」

「そんなぁ……」


 机に突っ伏した私を無視して、学園の先生は説明を続けた。


「年に3回実力テストがあります。その結果を踏まえて、1年毎にクラスが再編成されます。まぁ貴女は魔力がないそうなので変わらないと思いますが……」

「何度も言わないでください……」

「まあまあ、Gクラスには平民の貴女と同じ平民の生徒も多いのでなじみやすいと思いますよ」


 そういうと、先生は私を教室に案内した。今日から立派に学園生徒である。

 はぁ……クラスが違うとなると、カイと会えるのは食堂とか、寮とかかな。うん、学園の中にいればまだチャンスはあるはず!


 そう思っていた時期が私にもありました。


 昼食をとりに食堂に来てみれば、カイはSクラスのみが入ることを許される2階の特別席におり、寮生活はせず王宮からの通いであった。

 カレーを食べながら2階席をうらめしく眺めていると、黒髪と金髪の2人の女の子が声をかけてきてくれた。

 Gクラスに居た子達だ。


「ロザリアさん、一緒に座ってもいい?」

「どうぞどうぞ!」

「あたし、モモ。こっちの金髪のがメアリよ。ねえ、やっぱり2階席が気になる??」

「そりゃもちろん……」


 だってカイがそっちに居るんだもの。


「私達Gクラスだと、頑張って魔力と成績をあげても特殊能力なんてつかないから夢のまた夢よね」

「だけど、噂じゃ2階席を使える裏道があるらしいわよ?」


 黒髪をポニーテイルにした女の子――モモが言った。

 私は当然食いついた。

 メアリも興味津々である。


「裏道!?」

「なにそれ?」

「昨日入った部活の先輩が言ってたんだけどね、この学園ってバディ制度があるでしょ?」

「バディ制度?」


 なんですか、それは?


「あ、そっか。ロザリアさんは今日来たばかりだから知らないよね。入学の時に説明があったんだけど、2人1組でより実力を発揮できると認められれば、その2人はバディになれるの。バディになれば、クラスが違っても行事とか必要な時に優先的に一緒に行動ができたり、より実力を発揮するために絆を深める事を目的としていろんなものが優遇されるのよ」

「もしかして、Sクラスの人のバディになれば……?」

「ご明察!Sクラスの人に気に入られちゃえば、同じSクラスに在籍するのは無理でも、私達Gクラスでもあの2階で食事をすることもできちゃうってわけ!」


 それって……カイに指名してもらえれば私、いつでも一緒に居られるってこと??


「でもSクラスって高嶺の花よね」

「そうよね~~、なかなか出会うチャンスなんてないし……」


 モモとメアリはため息をついた。


「決めたっ!わたしバディに指名してもらえるように頑張るわ!」


 私はぐっとこぶしを握った。


「ふふふっ。ロザリアさんって前向きでいいわね。ね、ロザリアって呼んでもいい?」

「私も呼びたい。仲良くしようよ、また一緒にご飯も食べよ」

「ありがとう。もちろんいいよ。私もモモとメアリってよぶね」


 こうして私には早速2人もお友達ができた。




 カレーが食べ終わった後も、お昼休みの時間いっぱい、食堂の2階席からカイが降りてこないかと粘ったが来なかった。

 教室に戻ると、なんだかざわついている。


「何かあったの?」


 モモが他のクラスメイトに話しかける。


「さっき第三王子が廊下に来てたんだ。ちらっとGクラスを覗いてすぐにどこかに行ってしまったんだけど」

「もしかしたらバディ候補を探してるのかもって噂してて」

「あはっ、Gクラスじゃむりむりー」

「いいな~~、王子様、私も一目見たかった」


 メアリが残念そうに言った。


「席につけ~~。オリエンテーションの説明をするぞ~~」


 先生が教室に入ってくる。


「新入生親睦を目的として、スタンプラリーを行う。これは学園の東にある森の地形を覚える為でもある。今回は強い魔物なんかは放っていないので安心しなさい。万が一何かが起こった時は、配布する魔法陣を指定の方法で展開させればよい」


 魔法陣と説明書が配られた。


「この魔法陣は魔力が少ないものでも発動し、空に光を打ち上げるものだ。おもちゃみたいなものだが、遠くからでも光を見れば合図にもなる。その光をみた職員がすぐに駆け付けるだろう」


 魔法陣は薄く、折りたたんでポケットに入りそうだ。

 周りのみんながそうしているので、ロザリアもそうした。


「森を回るポイントは全部で6つ。それぞれの場所に立札が置いてあり、マップをかざすとスタンプが押される。すべて集めれば学園に戻ってきなさい。6つのポイントを回る順番は今から行うチーム分けで好きに決めてよい」


 チーム分けの為にくじを引く。

 最初から仲の良いもの同士でチームを組んで回っても、親睦の意味がないためだ。

 私のひいたくじには、パンダのマークが描かれていた。


「わ、ロザリア。メアリと一緒だね、おめでとう」


 覗き込んできたモモが言った。

 メアリが私の隣に来てにっこり笑う。


「よろしくねロザリア」


「パンダの人いますか?」


 眼鏡をかけ、フードマントを被った黒髪の男の子があちこちに声をかけている。

 メアリがこっちよ、と手を振った。


「私とこの子がパンダよ」

「ありがとう。メアリとロザリアだったよね」

「もうみんなの名前を覚えているの?」

「一応。ロザリアには自己紹介はじめてだよね。僕はトゥーリオ。Gクラスの委員長だよ」

「よろしく」


 トゥーリオと軽く握手をした。


「チームは4人1組だから、もう1人居る筈なんだけど……」


 トゥーリオがそう言って周りを見渡すが、どこも皆チームに挨拶をしているところで1人で居る人はいない。

 その時ガラリと教室の扉が開いて、灰色の髪をした、耳にピアスをたくさんつけた目つきの悪い男の子が入ってきた。


「ライカン、もう授業ははじまっているぞ。こちらに着てくじを引きなさい」

「……1つしかないじゃん」


 先生に言われて、彼は彼は嫌そうな顔をしつつも大人しくくじをひいた。

 そりゃ彼が最後だろうから1つしかないのは当然である。

 そしてそれは思った通りパンダのくじだった。

 トゥーリオが率先して声をかける。


「ライカン、僕達一緒だよ。まさか君となれるなんて嬉しいよ」

「トゥーリオか……」


 2人は真逆のタイプに見えるが、どうやら知り合いのようである。


「メアリよ。よろしくね」

「ロザリアです。よろしくお願いします」

「……ライカンだ。あまり話しかけるな」


 ライカンはそっぽを向いて言った。

 耳につけられたたくさんのピアスが揺れてシャラシャラと音をたてる。


「ピアス、綺麗だね」

「……話しかけるなっていったろう」


 私が言うと、ライカンは嫌そうな顔をして答えた。

 話しかけるなっていうけど、完全に無視してこないあたり嫌な奴ではなさそうだ。


「チームは皆揃ったようだな。ではマップを配る。開始時間は10分後、集まったチームから順番に出発させるから、すぐに森の入り口に集まるように」


 マップが配られると先生は去り、みんなそれぞれ移動しはじめた。


「森の入り口ってどこ??」

「一緒に行こう。メアリも、ライカンも」

「ええ」

「……ちっ」

「舌打ちで返事しないでよ」


 トゥーリオがライカンをたしなめる。

 私達は4人で入口に向かった。





 森に到着すると、すでに他のクラスは出発しはじめていた。

 私たちも先生に4人揃っていることを告げ、すぐに出発する。


「時間制限とかはないから。あまりに遅いときは探しにいくからね~~」


 先生が手を振って見送ってくれた。


「まず、どこから行く?」

「先にすこし奥のポイントに向かわない?手前の方はみんな立札に並んで混んでそうだから。ロザリアとライカンもそれでいい?」

「いいよ」

「……あぁ」


 メアリもトゥーリオもテキパキしていてとても頼もしい。

 ここに目印の岩があると先導しながら、この木の実はとてもおいしいなどの情報までロザリアに教えてくれる。

 ロザリアはついていくだけでも良さそうなほどである。


「……でね、注意点としては、この森にはその人の一番会いたい人を見せるっていう幻影を見せる植物があるらしくって……」


 ぼーっとついていきながらふと横を見ると、遠くに白い布を被った人が見えた。

 聖女はいつでも出仕できるよう、学園でも制服ではなく、ベールと聖女服を身にまとっている。


「カイ!?」


 きっとカイに違いない。

 私は思わず道を逸れて走り出した。


「……っおい!」


 マップに夢中なメアリとトゥーリオは気づかない。

 一番後ろをだるそうに歩いていたライカンだけが私に気づいて追いかけてきた。


「カーイ!」


 道ではない、植物が生い茂っている部分をためらいもなくカイに向かって一直線で進み声をかけるがカイに声は届かずこちらを振り向くことはない。


 何かおかしいかも?と気づいた時には、私の足元に地面はなかった。


「……っおい!!」

「きゃあああ!」


 崖の下に落ちる私を、ライカンが掴んで助けようとしてくれたが、バランスが取れず2人で落ちる。

 落ちる直前、彼は私を庇ってその大きな身体で抱きしめてくれた。

 怖そうな外見と言動をするくせに、めっちゃいい人じゃん……。




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可愛くて美人な幼馴染の聖女が実は男で、しかも私を溺愛してるなんて聞いてません 二ノ宮 ぷんた @myanmiya

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