第2話 目が覚めるとお城でした
目が覚めると病室らしきベッドの上だった。
身体を起こすと、医者が気が付いて私の傍へやってくる。
「気分はどうですか?」
「大丈夫です」
「どうしてここへ居るか覚えていますか?」
「えっと……どうしてだっけ」
確かカイに会おうとして学園にいったけど駄目で、北の森に行ったって聞いて追いかけて……
「うーん……覚えているような、覚えていないような」
「生死をさまよって、記憶がないのかもしれませんね」
医者は私の脈を確かめ、熱を測った。
「うん。身体はなんともないようです」
「少女は起きたのか?」
「殿下」
ガチャリ、と扉が開き、なにやらお顔のきらびやかな人が入ってきた。
水色の髪に青い瞳のどこかでみたような……そうだ新聞で、確かカイと一緒に写っていた……あれっ、もしかして王子様じゃない?
「名はなんという?」
「えっ?」
「名前だ。もしや記憶がないのか?」
王子様が私に話しかけている。
形の良い眉がひそめられて、私はあわてて自分の名前をいった。
「ロザリア=ルルーシェといいます!」
「ふむ。ではロザリア、お前には何か特別な力があるのか?」
「えっ……そんなもの、ありません」
あったら今頃カイに会いに行くための言い訳に使っていると思う。
「さきほど、聖女が大蛇との戦闘中にお前が近づくと大蛇の吐く毒が消え、再生がとまったと報告があった。お前の力ではないのか?」
「はっ……そうだ、カイ!カイは無事なのですか??」
王子様の眉がまたひそめられた。しわできますよ。
「聖女の知り合いか?カイは知らないと言っていたが?」
「カイとは幼馴染です!」
「ふぅん?」
王子様は私を眺めた。
「それで、無事なのですよね?」
「もちろん。毒が消え、再生力を失ったことで大蛇はほぼ無力となり我が兵が無事打ち取った。ボスが消えればほかの魔物も大人しくしているだろう。やはり心当たりはないのだな?」
「うぅん……あっ!」
私はようやく女神さまの事を思い出した。
カイのことばかり考えていたのでうっかり忘れていた。
「そういえば、私女神さまとお話したんだった!」
「……なに?」
「一度死んだときにお会いして、その時にカイの傍に居たいからちからを下さいってお願いしたんだった……!もしかして叶えてくれたのかな?」
「啓示を受けたのかッ!?」
王子様が叫んだので私は縮こまった。何かまずいことだったのだろうか。
「えぇと……その……たぶん?」
「女神は何と?ちからとはどんなものだ?」
「いえ、わかりません。ただカイの助けになりなさいって」
「すぐに調べよう」
「お待ちください」
医者が殿下の言葉をさえぎった。
「彼女は今起きたばかりです。無理は禁物。殿下はまた明日おいでください」
王子様は病室の外へ追い出された。
◇◆◇
次の日、たくさん寝てしっかり回復した私は、王子様の代わりに迎えに来たなんだか偉そうな人に連れられて、王宮の一角にある神殿に来ていた。
王宮の神殿には、10歳で行われた魔力検査の時以外に来た事がない。
カイのように魔力があったらいいなという期待は当然裏切られ、以降は街の教会の方でカイに会えますようにとお願いする日々であった。
その魔力検査のための石が目の前の机に置かれている。
「1度検査をしているのならわかると思いますが、触れた時に魔力があれば反応があるはずです」
すらっとした美人の神官お姉さんが説明して、私を石に触れるよう促した。
さわさわ。なでなで。つんつん。
「……何も起こりませんね」
石はピクリともしない。
「魔力があるというわけではないのか?」
偉そうな人がお姉さんに尋ねた。
「そのようです。わずかでもあれば、何かしらの反応がございますが、まったくありません」
「うーん……すぐばれる様な嘘をついているようには見えぬし、鑑定にかけてみるか」
神殿を出て、来た道を戻り王宮に入る。
「鑑定魔法はやはり王太子殿下に頼むのが一番だろう。お伺いをたてるから少しここで待っていなさい」
偉そうな人は私を廊下に置いて、扉に消えて行った。
窓の外を見ると、よく手入れされた庭が見える。
その庭を歩くカイとそのお付きの人たちの姿を見つけて思わず窓から身を乗り出した。
「カイ!おーい、ここだよ~!リアだよぉ~!」
声が届いたのかはわからないが、カイと目が合った。しかし、すぐに逸らされる。
カイはそのままぞろぞろと付き人を連れて、どこかへ行ってしまった。
「……忙しいのかな」
カイが私を覚えていないなんて、認めたくない私はそう呟いた。
「待たせたな。今ちょうど手があいておられるようだから入りなさい」
偉そう人が扉からでてきて言った。
手招きされたので一緒に扉にはいる。
中には、昨日見た王子様が成長したらこんな風になるだろうな、という感じのきらびやかな人がいた。
「王太子殿下、連れてまいりました」
「ロゼリアだろう、2番目の弟からも聞いているよ。どうぞそこに座って」
言われたとおりにソファーに腰かけると、メイドがすぐに紅茶を運んでくる。
「楽にしてくれ。今から君に鑑定をかける。強い魔法をかけるから気分が悪くなるかもしれない。もし体調が不安になったらすぐに言って欲しい」
「はい」
私が頷くと、王太子殿下が深く息を吸い込み、私に向かって手をかざした。
鑑定魔法ってはじめて受けるわ。一体何がわかるんだろう。
「……あれ?」
「どうされました?」
自分の手を見つめて首をかしげる王太子殿下に、偉そうな人が声をかけた。
「鑑定が発動しない。もう一度やってみる――――……だめだ」
「お疲れですか?」
「……まさか。この程度の魔法で疲れなど。試しにそこの紅茶でやってみる」
王太子殿下は紅茶に手をかざした。紅茶が淡く光る。
「アールグレイ、シロナス産。成分に怪しいものはなし。淹れたものはメイドのナタリー。美味しさ65/100」
美味しさまで数値化されるのか。紅茶を淹れたメイドがひっと息をのんだ。
「ナタリーはもう少し教育が必要なようですね」
「紅茶にはしっかり鑑定魔法がかかる。人はどうだろうか?ナタリー、鑑定を受けてくれるか?」
「ご、ご勘弁ください……!」
ナタリーは顔を覆って両手で覆って震えている。鑑定魔法ってそんなに怖いものなの?
「仕方ない。ヴァルヴァロッサ、お前に……」
「お断りします!!」
偉そうな人も顔を両手で覆って震えていた。
しかし王子は今度は有無をいわさず鑑定魔法を偉そうな人に向かって放った。
偉そうな人の全身が淡く光る。
「ヴァルヴァロッサ、28歳男性、職業第三王子補佐、メイドのナタリーとできている……ふむ、やはり人に対しても有効か」
「あ――っ、やめてください王太子殿下ぁあ――っ!」
すごいところまでわかるんだわ、鑑定魔法……恐るべし。
「しかし、となるとロゼリアに私の鑑定魔法がきかないのは何故だ?」
「もうお嫁にいけません……」
泣かないでヴァル……えーと、偉そうな人。ナタリーにお嫁に来てもらえばいいじゃん。
「もしかして、魔法の無効化か?」
「無効化?」
「試してみる価値はある。ヴァルヴァロッサ、泣いていないで彼女を魔法騎士団に連れて行ってこい」
「めそめそ」
「もう少し詳しい鑑定魔法の結果を伝えてやろうか?」
「すぐに行ってまいります!!」
偉そうな人は私を立たせるとあっという間に部屋を飛び出した。
魔法騎士団までは結構な道のりだった。
3階にあった王太子の執務室から階段を降りて広い中庭をつっきり、おいしそうなにおいの漂う食堂を抜け、家畜小屋と厩の前を通ってたくさんの洗濯物が干された井戸まわりの広場を過ぎ、それからようやく建物が見えてくるまでの間、カイがいないかとあちこち見回したがまったく見つからなかった。
こんなに王宮が広いなんて……ただ入っただけでカイに会えるなんて考えは無謀かもしれない。
偉そうな人が建物に入り、中で訓練を行っていた騎士の一人に声をかけた。
「団長はいるか?」
「今日は団長はおやすみでーっす」
「ぬう。今日の責任者は?」
「ランハートさんですよ、呼びましょうか」
「頼む」
出てきた男は茶髪のイケメンで、臙脂色の軍服の胸あたりにたくさんの勲章をつけていた。
「率直にいうが、この娘に魔法を撃ってみてほしい」
「……なんでまた?」
「いいからやってみてくれ」
「はあ。承知しました。じゃあ、君、そこに立ってくれる?あたってもあまり痛くないやつにするからね~~」
言われた通り訓練所の隅に立っていると、水鉄砲のような魔法がゆっくりと私に向かってきた。
その魔法の水が私に触れる前にすうっと消える。
「消えたな。もう少し威力の強いのはあるか?」
「んー……怪我させたら怖いんすけどねぇ」
「いざとなったら聖女様に頼む」
聖女様ってカイのこと??
もし怪我をしたらカイに会えるかもしれないってことだよね??
「構いません!大丈夫です、やっちゃってください!」
私は鼻息荒く宣言した。
「そ、そんじゃまあ……遠慮なく」
若干引きながらも、イケメンの魔法騎士様は構えをとった。
強い渦を巻いた竜巻がごう、と迫ってくるがやはり私の前にくると消えてしまう。
「威力は関係ないのか?見えてなくてもできるか確かめてよいか?」
「はい」
偉そうな人に尋ねられて私は頷いた。
目隠しをされて誘導された位置に立つ。
しばらくするとドカーン、バリバリ、とものすごい音がして目隠しがとられた。
今私が万が一無効化を発動できなかったら怪我どころの騒ぎじゃなかったのでは??
「おまえは無意識だったよな?」
「はい。何かしようとも思っていません」
「ふむ。無効化なのは間違いなさそうだ。報告は第三王子のところへ行くからついてきなさい」
また移動か~~。
来た道を引き返す時にまた食堂からいい匂いがして、私のお腹がくうと鳴った。
◇◆◇
第三王子は昨日病室にきた王子様だった。
偉そうな人が報告を済ませると、少し考えこみ、王子様が言った。
「魔力はないのに『無効化』の特殊能力があるのか?」
「はい。王太子殿下はそうお考えです」
「兄上の強力な『鑑定』すら『無効化』してしまうのだろう? もしや、魔力検査の石もそれで反応しないのではないか?」
「はっ……確かに。道具にかけられた魔法も『無効化』していたのなら、その可能性はあります」
王子様は腕組みをしながら指をとんとん、と叩いている。
どうも考えている時の癖らしい。
「ふむ。女神がロザリアに『カイのちからになれ』と言ったのなら、いずれそうなるよう彼女にも学園で勉強してもらおうか」
「学園にいけるんですかっ!?」
思わず私は食いついた。
それって、カイに毎日会えるってこと!?
「そうだ。そのちからは確かに強力だが、触れるものすべてに『無効化』がかかるのでは不便もあるだろう。扱えるようになってもらうためにも学園へ行った方がよいだろう。それに、カイの傍に将来的に控えるとなると、教養や品位もなくてはならない。年齢はいくつだ?」
「14です!」
「カイと同じか。ということは、俺とも同じだ。ちょうどいい、1学年に今からでも間に合うだろう。なるべく早い方がいいから、すぐに手続きしろ、ヴァルヴァロッサ」
「わかりました」
私はガッツポーズをした。
やった!カイと同じ学園!
女神様ありがとう!私、頑張ります!!
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