竜化
ノルテに来て、ニ週間が過ぎた。
僕は師匠と毎日のように特訓をしている。
最初の頃は1、2回引き分ける位が限界だったけど、昨日は10戦中10回引き分けになった。
やはり、相手が水の竜力しか使わないので、日に日に対策ができる。
今日こそ、1勝出来そうな気がする。
「"
水には雷が有効だ。
それを活かして、僕は雷を織り交ぜて攻撃する。
「"
師匠は難なく水の壁で、防ぐ。
しかし、それもここ最近の戦いのから予想済み。
炎の熱で湯気が発生する。
視界が悪くなったところで、僕は一気に距離を詰める。
懐に潜り、至近距離から雷を打ち込めば勝てる!
「"
師匠の胸の前で構える。
これで僕の勝ちだ。
「....まだまだじゃな」
『カルマ、後ろだ』
シキの言葉で振り向くと、湯気に隠れて、複数の小さな水竜が僕の方を向いていた。
これは"
つまり、引き分けだ。
「はぁ....。勝てたと思ったのに...」
「はっはっはっ!そう病むことはない。近づかれた時は少しヒヤリとしたぞ!はっはっはっ!!」
「少し....ですか....」
そこは嘘でも、焦ったと言って欲しかった...。
これでは、引き分けというのも烏滸がましくなってきた。
僕が距離を詰める間、湯気に隠した水竜を撃てたはず。
完敗だ....。
『そうでもない。移動時に周囲を凍らせながらであれば、カルマが勝っていた』
そうか。
相手が水しか使えないって分かっているんだから、凍らせて無力化すれば良かったんだ。
「じゃが、このままでは、今日中に負けてしまうかもしれんのぅ...」
「はいっ!今日こそ勝ちますっ!!」
「ふむ。たった二週間で負けるようでは、儂の立つ瀬がない。少し本気を出そうか」
「え....」
今まで本気じゃなかったのか....。
そうだよね。
子供相手に最初から本気出さないよね.....。
「お主は竜化を使えるのか?」
「竜化?何ですか、それ」
「なんじゃ、竜王から聞いておらぬのか」
そういえば、前に師匠の話にも出てたな。
師匠は僕から距離を取りつつ説明を始めた。
「竜化とは、竜を心に宿す者の奥義じゃ。即ち、自らの体に竜を纏うこと」
「竜を纏う?」
「そうじゃ。竜化すれば、角や尻尾が生え、皮膚が鱗に変わる。
そんな事が...。
どうして、教えてくれなかったの?
『教えても出来ないからだ。竜化すれば、儂の力が強すぎて、大陸全てに存在が気付かれる。そうなっては困るからだ』
な、なるほど。
それでも、知識として教えてくれるだけでも良かったのに....。
絶対、面倒臭いとかーーーー。
『だが、その代わりに擬竜化を教えただろう』
いや、初めて聞いたんですけど。
『前からやっている、儂に体を貸すことだ。擬竜化だと威力は変わらないが、儂の力を最大限使える』
そっか、あれが擬竜化か...。
ってことは、僕は知らず知らずの間に、奥義を身につけていたのか。
「師匠、僕は竜化が出来ないようです」
「そうか。じゃが、ずるいとは思うなよ?」
「....へ?」
「見ておれ」
僕と屋敷から距離を取った師匠が言った。
「我が身に宿れ水竜っ!!」
その瞬間、師匠から強烈な風が吹き出し、姿を変え始めた。
額からは2本の青い角が生え、顔の周りから皮膚が鱗に変わっていく。
まるで水竜を防具にしたような胸当てが装備され、篭手、脛当てと続いていく。
足に限っては本物の竜のようだ。
最後に青い尻尾が生え、吹き荒れる風が収まった。
その堂々たる姿はカッコイイの一言だ。
まるで、本物の竜が目の前に居るよな威圧感に、僕は少し後退りをした。
それに、なんと言っても、竜力の増加が大きい。
肌がピリつく程、竜力が盛れ出しているのが分かる。
「この姿になるのも久しぶりじゃの。ガキよ、この竜化した儂に勝ってみろ!そうすれば、褒美にメディオへ1日帰してやろう!」
勝てば、アリア達に会えると言うことか!
それは、断然やる気が出てくる。
「が、頑張りますっ!!」
でも、全く勝てる気がしない...。
案の定、これから半年間、僕は負け続けるのであった。
エレヒール〜一色しか選べない世界で全色使える俺は全てのヒロインを魅了する〜「下民でも貴族社会を生き抜いてみせます!!」 @TyaganNoRyu
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