専属執事2
マリン様の披露宴の時、私の主は誘拐された。
王城の隅々まで探したが見つからなかった。
それもそのはず。
カルマ様はゴート様に連れ帰られたと、旦那様から聞いた。
いや、もうそれ、誘拐じゃないですか....。
専属執事である私もゴート様の屋敷に移るように指示された。
早々に支度を済ませ、翌日の朝、出発することにした。
「行きますよ、グリード」
「ふああぁ。こんな、朝早くじゃなくてもいいだろ。まだ日も昇ってねーぜ?ったくよぉ」
この男は3ヶ月前に自らカルマ様の世話がしたいと申し出てきた。
心掛けは認めるが、態度がなっていない。
今は
執事の先輩として、態度を改めるよう指導するのは当然の事だろう。
「はいはい、分かった分かった」
「いや、お前は分かっていない!」
執事、それも専属執事と言うのは、常日頃から主の顔がついて回るもの。
我々の一喜一憂が、カルマ様のそれとなるのだ。
あれは何処どこの専属執事だ、等と言われた時には自害してもらおう。
しかし、3ヶ月の男にこれを求めるのは高望みだろうと思うところもある。
カルマ様に恥をかかす前に、教育することにしよう。
なに、ここからノルテまでは丸一日かかるのだ。
それだけあれば、改心するだろう。
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ゴート様の屋敷には、予想より早く着いた。
豪華な馬車ではなく、荷車だった事が大きいだろう。
主を乗せないのに馬車である必要がない。
荷車であれば、行商人を装うことも出来るからな。
その為、今日の私たちは私服だ。
「はああぁぁぁあ」
馬車を止めるなり、グリードが深いため息をついた。
「一度も
「そりゃっ、丸一日執事がどうとか聞かされてれば、俺じゃなくても疲れるわっ!!」
「私はお前の為にだなーーー」
ドカンッ!!
突然の爆発音に、私たちは臨戦態勢をとる。
屋敷を見ると裏手から煙が上がっていた。
「カルマ様っ!」
私よりも先に動き出したのはグリードだった。
普段からカルマ様の前だけは優秀な執事を務めている。
そこは、素直に評価しているのだ。
グリードに続き、建物の裏手を見るとカルマ様とゴート様の姿があった。
黒煙が立ち込める中、何か話をしているようだ。
「はっはっはっ!この儂と互角とは、流石、竜王と言ったところかのう!!」
「いや、9回負けての引き分けなんて、互角とは言えませんよ.....」
「ん、そうか?なら、もう一戦だけしておくか?」
どうやら、お二人は特訓をしているようだ。
よかった、大事じゃなくて。
「リナとグリード=オルム伯爵ですね?」
安心したのも束の間、私は気を引き締め直す。
この人は以前、ここへ来た時に出迎えて下さった中年の執事の方だ。
「お待ちしてました。お二人の事はカルマ様から聞いてます。主人に変わり歓迎します。部屋へ案内するので、着いてきて下さい」
歳は私の父の少し上くらいだろうか。
所々に目立つ白髪を見ながら後を追った。
「申し遅れました、私はこの屋敷の執事長を務めております、スモークと申します。簡単にですが、この屋敷についてご説明します」
移動しながら説明するところ、この人の有能さが伝わってくる。
流石、ゴート様の執事だ。
「そうそう、失礼とは存じますが、ここでは伯爵ではなく、一執事として扱います。宜しいですね、グリード?」
「分かっ....承知しました」
「宜しい。では、本格的な業務は明日からにして、今日は主の所へ向かいましょうか」
そう言って連れられたのは食堂だった。
既にカルマ様はゴート様、スティーリア様と共に食事を取られていた。
ゴート様は厳しい方という印象だったが、3人で和気あいあいとなさっていた。
私とグリードはカルマ様の後ろに立ち、ご食事を見守った。
食後にお茶が配られ、夜のティータイムが始まった。
先程に続き談笑を楽しまれていたが、その中でカルマ様が、少し暗めのトーンで口を開いた。
「師匠、昨日父上が言っていた、"2年前セブンスター家によって消滅させられた村"とはどういう事ですか?」
カルマ様の質問の意図は私にはよく分からなかった。
それより、ゴート様を"師匠"と呼んでいる事が気になる。
「父上?ああ、オルトのことか。....その通りの意味じゃ」
ゴート様は我々の顔を少し見て、言葉を選ぶようにして続けた。
「あの村を消滅させたのは、当時セブンスター家当主だった、レオンという男じゃ。この男は前々から問題を起こし、頻繁に貴族会議で名前が上がっていた。あの一件で当主を解任させ、追放された。今はその弟がセブンスター家の当主をしておるがの」
「....そう....ですか」
カルマ様は暗い表情をしていた。
まるで、あの頃に戻った様に....。
ふと思い出した。
カルマ様が旦那様を訪ねて来た頃、十貴族の当主が下民の村を焼き尽くしたと、屋敷で噂されていた。
何か関係があるのだろうか?
....いや、カルマ様の事だ。
その下民達の死を憂いておられるのだ。
なんと心の優しいお方だろうか。
そんなところが、また、愛おしい。
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