第5話 奇跡

上野駅はカップルや家族連れでごった返していた。

今日は都内何処ともこんな感じなのだろうな。日も落ち、街はキラキラした雰囲気とクリスマスソングに浮足立っている。

そして、果たしてそこには、確かにクリスマスツリーがあった。

7mほどのクリスマスツリーの足元には都内のランドマークの名所がステージとなって、サンタ帽子をかぶったカラフルなパンダが並んでいる。

とても賑やかなツリーだった。


そして、そのツリーの隣には恰幅のいい白い髭の老人が待っていた。

僕たちを見つけたその人はにっこりと笑って、こちらに近づいてきた。

「渡中さん。やっと来ましたね。今年は難しかったですか?」

その老人は渡中の肩をポンポンとたたいて笑っている。

「蔵臼さん、今年は難儀しましたよ。この方たちに助けてもらえたからよかったですが、来年はもう少しお手柔らかにお願いしますよ。」

「ふぉっふぉっふぉっ。そうですか。お疲れさまでした。おふたりもありがとうございました。

では、参りましょう。今年もお仕事のお時間ですよ。」

蔵臼はにこやかに豪快に笑って行ってしまった。

「お二人さん。お手伝いありがとうございました。これで世界中の子供たちが悲しい思いをしなくて済みます。では、私たちはこれから仕事がありますので、失礼いたします。依頼料は後日お支払いをいたします。」

渡中はそういって慌てて蔵臼を追いかけて行った。

二人が立ち去った後、はらはらと柔らかい雪が降りだした。


「ホワイトクリスマスだな。積もるかな。。。

なぁ、迅。俺思ったんだけど、もしかしてあの二人って…」

「まさか。サンタとトナカイ?そんな…」

どうやら紫音も僕と同じことを考えていたらしい。

でも、そんなおとぎ話のようなことなんて…

「あ、でも『渡中 亥』と『蔵臼 三太』だよな。渡中さんってガイさんだと勝手に思っていたけど、そうじゃなくてイさんなのかな。だとしたら、トナカイ?で、蔵臼さんは名前と姓をひっくり返して、サンタクラウス?サンタクロース!!」

僕と紫音が目を見合わせているとどこからか、シャンシャンという鈴の音が聞こえてきて、暮れ始めた空を見上げると、そりを引くトナカイのシルエットが夜空に駆け上がっていくところだった。

「メーリークリスマス!!」

そんな声が聞こえたような気がした。


でも、渡中さん高所恐怖症って言ってたよな。高所恐怖症のトナカイ??本当に?大丈夫なのか?


翌日の25日は、KINGとQueenのクリスマスパーティだった。

僕は昨日、配達をさぼっていたので今日、親父たちの分の配達もすることになり、ちょっと遅れての参加になってしまった。

プレゼント交換用のプレゼントと、親父からくすねたちょっと高いシャンパンをもって、KINGへ向かった。

もうみんなが揃っていて、パーティはとても盛り上がっていた。

「迅君、おっそいわよ~。もうママなんか出来上がっちゃってるんだから」

モモちゃんが奥のほうから声をかけてきた。

「遅れてすいません。お詫びにちょっといいシャンパン親父からくすねてきました。」

「きゃー迅君、グッジョブよ~。」

奥から、ママが走ってきて、僕の手からシャンパンを受け取ると、またみんなの所に戻っていった。

紫音と岸くんが僕のところにやってきて、紫音が僕に耳打ちをした。

「今朝、俺の枕元に靴下に入った100万が置いてあった。この手紙と一緒に。」

その手紙には『世界の子供たちの笑顔のために メリークリスマス HOHOHO』と書かれていた。

「俺の枕元も、手紙と一緒に欲しかったPCが置かれてたよ。やっぱりあの二人はサンタとトナカイだったんじゃないかな。」

夢みたいな話だけど、そんな夢みたいな話もこの世知辛い世の中には必要なのかもしれない。


「俺んところにもプレゼントが来たよ。前から欲しいと思っていた自転車だったんだけどさ。枕元に手紙が置いてあって、昨日はありがとうございましたって。そんで、アパートの駐輪場に行けって書いてあんの。で、行ったら、リボンのかかった自転車が置いてあった。岸様へって。

てか、サンタとトナカイって何?お前ら、二人とも何おとぎ話みたいなこと言ってんだよ。」

岸くんは僕たちの事をケラケラと笑っている。

そんな岸くんに僕が

「じゃ、どうやって岸くんの枕元に手紙があったのよ?プレゼントはなんで?」

と聞くと、

「えっと、鍵空いてたのかな?」といった。

「不用心な警察官だな。」

紫音は呆れたように言った。

岸くんは頭をポリポリ搔きながら、腑に落ちない様子で首をかしげている。


岸くんは途中で仕事に呼び出されたからね。あの後の話はまた今度してあげよう。


「ちょっと、そこのイケメン三人!!三人で何こそこそしてるのよ!!いやらしいわー。ほらぁ、迅くん持参のシャンパン開けちゃうわよー早くこっちいらっしゃい!!」

シャンパンが待ちきれないQueenのママが僕たちを呼んだ。

「あ、そのシャンパン高いんですからねー。ママがぶ飲みしちゃだめだよー」


今年のクリスマスはいつになく賑やかで温かくて少し刺激的で。

僕にとって、とても幸せなクリスマスになった。




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聖夜の奇跡ーThe Detactive KP KPenguin5 (筆吟🐧) @Aipenguin

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