アンサーソング

凪 志織

アンサーソング


ひんやりとした石壁のぬくもりを背中に感じながら、私は今日も小窓から見える小さな空を眺めていた


今日も小窓から見える景色は変わらない


退屈と平和を噛みしめながら、空を眺めていた時のことだった


小窓から突然、歌が投げ込まれた




歌は毎日聴こえてきた


よくもまあ飽きもせず同じ歌を歌えるものだ、と私は少しあきれた


誰にも届かない歌を彼は今日も歌う


どこへ向けて、なんのために歌っているのかわからない


青い空の映る小窓から降ってくるその歌を私は今日も背中で聴いた


誰が歌っているのか確認しようにも、この部屋の唯一の小窓はあまりに高すぎる位置にあった


この部屋に扉はない


外への出方はわからない


自分がどうやって来たのか、いつからここにいるのかもわからなかった


雨の日も、雪の日も、歌は窓から降ってきた

その音色をつかもうと窓に手を伸ばした


指の隙間から音と光の粒が零れ落ちてきた





この部屋に扉はない


出て行く方法はわからない


出て行きたいとも思わない


それなりにここは居心地が良い


怖いものもない


ここが私の居場所なのだ





今日も彼は歌う


誰にも届かない歌を


誰に向けて歌っているのかもわからないその歌を


いつの日か私は彼の歌を口ずさむようになった


誰にも届かない声で


かすかに空気を震わせた





ある日、歌は止んだ


私は一人でその歌を口ずさみながら再び小窓から流れる彼の歌を待った


だけど、いくら待っても彼の歌声が響いてくることはなかった


私は一人で歌い続けた


前よりも少し大きな声で


自分の心を震わせた





歌は覚えた


もう一人で歌える


私は立ち上がり窓の外に向かって歌った


彼に届くように


声が枯れるまで


知らせたかった


ちゃんとここであなたの歌を聴いていた、と


初めて外へ出たいと思った


知っていたんだ

扉は最初からそこにあった


鍵もとうの昔に外されていた


私は自分で自分を閉じ込めたんだ


私は上着を羽織り、靴を履き、扉を押した


陽の光がまぶしかった


彼はいない


でも、この空の下、今日もどこかで歌っているのだろう


誰に届くかもわからないあの歌を


私は口ずさみながら歩き出す

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アンサーソング 凪 志織 @nagishiori

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