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公園で、ママのコートにくるまれたまま、ヒルデはママに抱きしめられていた。
ママは泣いていて、それから笑った。
髭の男の人も、ほっと息をついて、胸をなで下ろした。
そのひげも、髪も体もびしょ濡れだった……
……ジルと一緒に、氷水のなかに飛び込んで助けてくれたのだ。
ジルも隣にいて、大人のコートにくるまれていた。
「助けてくれて、ありがとう」
ヒルデはジルの頬にキスしてあげたけれど、ジルは困ったような顔で言った。
「……ごめんなさい、夢中だったんだ。……その……持っていた顕微鏡を、湖のなかに落として、失くしてしまった……」
ごにょごにょと、なにやら言い訳を繰り返している。
*えぇ? 顕微鏡を……湖のなかに? なんで?*
ヒルデは、あぜんとして、怒りで頭が真っ白になった。
……けれどもそれから……ため息をついて、ジルをやさしくハグした。
「失敗は誰にでもあるよ。心を明るく切り替えて、解決法をさがそうよ」
雪のひとひらが、ふんわりと降りてきて、ヒルデのまつげをくすぐった。
* * *
それからみんな大急ぎで、ヒルデの家に戻った。
子供たちと、髭の男の人――ユーアンは、順番にあたたかいシャワーを浴びて、乾いた服に着替えた。
毛布にくるまれた子供たちは、ストーブの前であたたまった。
ジルが言った。
「春か夏になったら、また湖に潜って、顕微鏡を探すよ」
「うん、ありがとう。わたしも探す」
と、ヒルデはうなずいた。
ヒルデが溺れた場所は、ユーアンの足がつくくらいだったから、それほど深くない。
「危ないから、大人も一緒に、みんなで探そうね」
と、心配性のママ。
大人たちが、ジルを家まで送り届けた。
その晩――
ヒルデは、ママとユーアンと、三人で過ごした。
ユーアンはおだやかな口調のやさしい人で、ヒルデにクリスマス・プレゼントを約束してくれた。
新品の、顕微鏡――!
ヒルデは上機嫌になって、プルーンのジャムを乗せた花型のパイ……ヨウルトルットゥをたくさん焼いた。最高にうまく焼けた。
ちいさな台所の窓をのぞいて、彼女は雪天使の姿を探した。
夜の闇のなかに、ちらちらと、また雪が舞いはじめている。
ヨウルトルットゥをひとつお皿に乗せると、ヒルデは外に出て、ポーチの隅に、そっと置いた。
❆ ❆ ❆
最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
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(近況ノート)
*クロッケル* KAJUN @dkjn
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