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その丸窓をのぞくと、ママと、あの髭の男の人が、うっとりと見つめ合い、心から楽しそうに語らいあっていた。
クロッケルが言った。
「あの髭の男を、この鋭く冷たいヒョウのつるぎで追い払って、君にママをかえしてあげるノデス」
ヒルデは、じっと丸窓を見つめていたが、やがて、首を横にふった。
クロッケルは肩をすくめた。
ヒルデはまた、次の丸窓まで歩いていって、のぞきこんだ。
――お葬式だ。
黒い棺が見えた。
棺には、丸い窓がついており、その奥に、とりどりの花々に囲まれた少女の、青白い顔が見えた。
ヒルデがのぞきこむと、それはガラスに映ったヒルデ自身の顔に、ぴったりと重なった。
みんな泣いている。
パパも、ママも、ジルも……。
クロッケルまで……!
それはヒルデのお葬式だった。
――ヒルデはまた、首を横にふると、憂鬱になって、その場に座りこんだ。
「わたしは、自分がいなくなることも、望んでない」
「じゃ、なにを望んでるノデス?」
「……世界中の人にしあわせを。わたしのねがいは、それだけ」
「具体的に、もっと具体的に! ……しあわせって、なあに?」
「……わかんない」
「君がそんなふうに、うつむいていたんじゃ、みんな、しあわせな気分にはならないデスよ。大きなしあわせのためには、君自身のしあわせから、はじめなきゃいけないノデスよ」
しばらく考えていたヒルデは、決心したように、ふいに顔をあげた。
「そうね、わたし、ジルと仲なおりする」
下がり気味になっていた緑の帽子を押しあげて、ヒルデは、おでこと目元を明るくした。
それを見て、クロッケルは初めて、にっこりと笑った。
「そうそう、それがいいノデス。……見てごらん」
クロッケルは次の丸窓まで飛んで行って、ヒルデを手招いた。
ヒルデがのぞきこむと、そこはさっきの湖で、見おぼえのある緑の帽子をかぶった子供が
――たいへんだ! 足元の氷が割れたのだ!
「あれはジルよ! あの緑の帽子をかぶってる! クロッケル、オネガイ、助けてあげて」
「……残念でした。雪天使は、水のなかに入ると溶けてしまうノデス。雪ですから……」
「もう、役立たずね! わたしが助けるから、力を貸して!」
「それなら大丈夫。さあ、こっちの扉から飛び込むノデスノーデス」
大きな鋼鉄製の扉を、重いハンドルを回しながらひらくと……
――そこはもう、ジルの溺れている場所だった。
ヒルデはわき目もふらず、冷たい水のなかに飛び込んだ!
ブクブクと空気の泡が立ちのぼって……この時、ヒルデは、ハッと夢から覚めた。
自分が手足をばたつかせ、氷水のなかで、溺れもがいているのに気づいた。
足がつかない!
しびれるほどに冷たい水が、肌を切り、
*え? 溺れてるのは、わたしだったの?*
夢の丸窓から見た、溺れていた子……あの緑の帽子をかぶった子は、ジルではなく、ヒルデだったのだ――!
*わたし、氷を踏み抜いて、気を失って、雪天使の夢を見て……自分が溺れるのを、上から見てた……*
遠のく意識のなか……
……助けに飛び込んできたジルが、信じられないほどの力で体を押しあげるのを、ヒルデは感じた。
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