番外編 sweet flavor❷ (陸×史緒オメガバースパロ)

リビングに戻ると気がついた史緒が錠剤のシートをばらまいていた。

「どうした?大丈夫?」

「うん、僕どのくらい寝てた?」

おそらくアフターピルを気にしているのだろう

「大丈夫、まだ2時間も経ってないよ」

そう言うとホッとした顔でパチンと錠剤をシートから出すと口に含んだ。

「抑制剤も飲むの?」

「発作起きた時に一度飲んでるから今日はもう止めた方がいいかも」

「そっか。俺も今日は泊まるから調子悪かったら言って」

「薬変えなきゃダメかな」

ため息混じりに誰ともなしに呟くので

「次病院行く時、一緒に行くよ」

史緒は慌てて1人で大丈夫と言うが、前から思っていたことだった。ネットの情報だけではなく史緒に合った付き合い方をしたい、そして番になった後の話も専門家から聞いておきたいと伝えた。

「ね、いいでしょ?」

史緒は縦に首を振らない。

「陸の気持ち嬉しいけど、やっぱり色々陸に知られるの、ちょっと…なんて言うか」

「抵抗ある?」

「幻滅されそうで」

「幻滅?俺はオメガである史緒を尊い存在だって思ってるんだけど、すごーく神秘的」

そう言って史緒の薄いお腹に手を載せた。

「ちょっと陸、そんな事冗談でも外で言わないでよ?」

「冗談なんかじゃないよ」

顔を寄せてキスをすると、スっと目を逸らせた。

「こういう事もあるし、番になることちゃんと考えようよ」

「今回は周期がズレただけだから大丈夫。その話は陸が卒業してからしようって何度も言ってるじゃない?」

「番になるのが決まってるのに、史緒の身体に負担が掛かってるのに敢えて待つ理由が見つからないんだけど?今なったとしてどんな不利益があるんだよ」

史緒は俺を苦しそうに見つめながら何も言わない。言わない史緒に何か言わせたくて追い詰めてしまう。

「俺が信じられないんだろ?」

「違う!」

「そうやって頑ななのは学生の時の失恋も影響してるんだろ?そいつに裏切られたから俺もまた裏切るんじゃないかって、そんな奴と一緒にすんなよ!少しは信用しろよ!」

ずっと引っかかっていた「言ってはいけないこと」をぶつけてしまった。途中でダメだと思いながら自分を止められなかった。史緒に信用されないと思う寂しさは自分で思っていた以上だったと思い知らされる。

「…どうして、そんなこと」

長い沈黙の後、史緒はやっとそう言葉を吐き出した。

「どうしてそんな風に思うの」

「史緒は何が嫌なの?」

「僕は陸と番になったとして、その先に陸が誰か別のひとと出会った時に番を解消されても仕方ないと思ってる」

一体何を言い出すのかと驚いて話を止めようとしたが、史緒は俺を制して続けた。

「陸は選ばれたアルファだからきっと僕なんかよりマッチングする相手が絶対いる筈で、ただ今は出会ってないだけなんだと思う。もし出会った時にそれを僕に伝えないで苦しまないでちゃんと伝えて番を解消して欲しいんだ。僕は陸の幸せを優先したいから」

見当違いの事を言い出す史緒に何が幸せかなんて俺が決めるんだよ、と伝える。

一度番になったアルファとオメガはアルファからのみ番の解消をする事が出来るが、オメガは最初の番以外身体が受け付けなくなるため関係を解消されたら以降パートナーを作ることは生涯出来なくなる。その先の孤独と絶望は言うまでもない。それを覚悟しているって言うのか?バカげている。

気持ちという曖昧なものを言葉にするのは苦手だ、でも何としても少しでも伝われと口を開く。

「俺はさ、答えが出ないものって気持ち悪くて苦手なんだ。説明のつくことが正しいって思ってた」

俺が話し出すと史緒は真っ直ぐ俺を見据えて言葉を待つ。

「でもさ説明出来ないことってあるんだよ、史緒に初めて会ってからずっと頭から離れなくて、会いたくて、自分のものにしたくて、説明のつかない史緒の存在が俺の中でどんどん大きくなってきてどうしようもないんだ、だから…」

そこまで言うと史緒は身体を寄せて俺の胸元に額をコツンと当てた。

「陸、煙草吸ってる?」

「あ、ごめん。さっき換気扇のとこで1本吸った。臭い?」

「ううん、煙草の匂い好き。吸い始めたんだ?」

「さっきはごめん。酷いこと言った」

「うん、陸に言われると堪える。でも僕も言葉足らずだった、ごめんね」

史緒を抱っこするように抱えると首に腕を回してくる。

「あのさ、ネスティングしてる史緒すっごく可愛かったし、セックスの時めちゃくちゃエッチだったし。そういう史緒の俺に見せてないところもっと全部知りたい」

史緒はどうしようというような表情をしている。

「ねぇ、お願い。教えてよ」

耳元に口を近づけて囁くと顔を寄せてキスを強請る。乾いた唇を重ねると舌を伸ばして俺の唇を舐めた。

「史緒?」

「…うん、分かった」

少し間を置いてから

「でも恥ずかしいからちょっとずつね」

控え目にはにかむような笑顔でそう付け足した。

 

「ねぇ陸、煙草ある?」

「うん?あるけど吸う?」

ローテーブルの上から1本取って火を点けて史緒に渡す。日本の指で煙草を口元に持っていき煙を吐き出すと「あー、久しぶり」と呟く。

「史緒、吸ってたの?」

堂にいった吸い方に聞いてみると今はスッパリ止めているが、学生時代にはそこそこヘビースモーカーだったという。

「制作してると合間合間で欲しくなるんだよね、お酒飲む訳行かないし」

史緒から煙草を受け取ると自分も肺に深く吸い込む。

「体調大丈夫?」

アフターピルの副作用は割と強く、前回のヒートの時は嘔吐が止まらず、史緒は数時間トイレに籠っていた。

「うん、今回は何ともない。効いてないこと無いよね?」

「ちゃんと飲んだなら大丈夫でしょ?」

「少し眠いかも」

俺の胸元で小さく欠伸をする。

まだ昼間の陽の高い時間だった。そよそよとカーテンを揺らす風が気持ちよい。

「我儘言ってもいい?」

史緒はそう言ってまた大きな黒目をくるりと俺に向ける。

「ちょっとだけ一緒に寝て欲しい」

子供の様な『我儘』が恥ずかしいのか俯いて顔を隠すが耳まで赤くしているのが愛おしい。

「お易い御用ですよ、お姫様」

 横抱きにして寝室のベッドへそっと降ろして俺も横になる。腕枕をしてあげると華奢な身体は腕の中にすっぽりと入ってしまいしばらくするとすぅすぅと寝息を立て始める。規則正しい寝息とTシャツ越しに伝わる体温に俺まで欠伸が出てしまう。細い首にキスを落とすと明日新しいカラーを買ってあげようと思った。甘やかな匂いに包まれていつしか同じ夢を見ていた。

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Coffee first, Schemes later 雨ノ森 @amenomori_

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