番外編 sweet flavor❶ (陸×史緒オメガバースパロ)


『今日バイト終わったら行っていい?』

大学を出るタイミングでメッセージを送信したが、バイトの終わる時間になっても既読は付いたものの返信はなかった。

少し早い気もするがそろそろ3ヶ月経つのかと最近吸い始めた煙草に火を点けた。

どうしてもアルファはオメガの「匂い」に過敏になる。それは繁殖という本能が働き、優秀なアルファの子孫を残そうという本能がそうさせる。二十歳を超えて史緒と付き合い出してから顕著に史緒以外のオメガの匂いを鼻につくようになった。煙草を吸い始めたのは外部からの刺激を鈍化させたいという目的もあった。

付き合って約1年、好きになったのは俺の方だった。年齢は6つ上だが中性的な美しい顔と物静かな性格はアルファの庇護欲をこれでもかと掻き立てる。ないと信じつつも他のアルファに間違っても噛まれる前に早く番になってしまいたかった。

それでも史緒は俺が大学を卒業するまでは項は噛ませないと頑なだ。

「番は約束じゃなくて契約だから、社会人になってからでも遅くないよ。陸はこの先『運命の番』に会うかもしれないし」

「そんなの都市伝説でしょ」

年下の彼氏に引け目があるのだろうか、それとも過去の失恋のトラウマで俺の心変わりを恐れているのか、俺は史緒の傍に居続ける事で答えを出す。

普段より火照る身体や微かに感じる甘い匂いにヒートである兆候は見せるものの、いつも通り俺を受け容れる様子に特別なものは見当たらない。勿論ヒートは身体的にも精神的にも負担が大きい。普段から細心の注意を払って抑制剤を飲み、カラーをしてヒート時のセックスの後はアフターピルを飲んで妊娠を回避する。

冷静な恋人に少し寂しい気もするが、オメガとしてただでさえ生きにくい身体と付き合っているのだ。アルファである俺は史緒に寄り添うしかない。


今日の午後、講義中に突然ヒートの発作が始まって担ぎ出されて行く学生が居た。

街中や学内でオメガのフェロモンを感じることはあっても、実際倒れる程の発作を見るのは初めてだった。

俺自身、服薬しているにも関わらず強烈なフェロモンに当てられ、それからずっと下半身がモヤモヤしたままで鼻腔に残る甘ったるい匂いを史緒の匂いで早く上書きしたかった。


 マンションの中は既に史緒の匂いがしていた。寝室に直行し、ドアを開けると甘い中に微かにジャスミンのようなエキゾチックな香りのする史緒特有のフェロモンが立ち込める。

ベッドには俺のTシャツや恐らくいつかの事後のシーツでまるで結界のように円を描き、その真ん中に小さく身体を縮めた史緒が横たわっている。俺の下着に顔を埋め、ふぅふぅと荒い息を吐く恋人のあまりの色気に鳥肌が立つ。

(ネスティング…)

知識としては知っていたが、実際見るのは初めてだった。ましてはヒート時でもいつもと殆ど変わらない史緒がネスティングをするとは驚きと共に興奮が収まらなかった。

「マジかよ」

史緒は俺には気づいていない様子で、少しでもヒートを収めようとしているのか自ら後孔に手を伸ばし熱を逃がそうとしていた。

ベッドにそっと腰掛け、汗で額に貼り付いた髪を梳いてあげると虚ろな目で俺を見上げた。

「りく…?」

「うん、陸だよ」

額にキスをすると嬉しそうに目を細めた。

「ふ、すごく早く、ヒート、来て…」

「抑制剤は飲んだ?」

「全然、効かない」

「辛いね」

熱に浮かされるように喘ぐ史緒の頭を撫でてあげると猫のように擦り寄ってくる。

「いつも新しい下着やTシャツを用意してくれてると思ったら」

そう言うと責められてると思ったのか

「ごめんなさい、ごめんなさい」

見られるとは思わなかったから混乱しているのだろう、叱られた子供のように小さな声で謝る史緒の揺れる感情を宥めるように冷静に接しようと思うが、裏腹に自身の性器は限界な程勃ち上がっていた。

「全然いいんだよ、気づかなくてごめんね。上手に出来たね」

パートナーの作った巣を褒めてあげるといいというのを思い出し、試しに伝えてみると史緒はふにゃりと顔を綻ばせて「ホント?嬉しい」と喜んだ。

史緒は相変わらずベッドに横になったまま俺の下着を鼻先に宛てて恍惚の表情をしている。

「ねぇ史緒、それより本物が目の前にいるんだけど、俺のことは構ってくれないの?」

するとおずおずと身体を起こし、俺が着たTシャツを1枚ずつ集めてまるで宝物のように衣類ケースに入れた。黙々と行われるそれは何かの儀式のようで、でも手に抱えてるのは俺の下着で真剣な表情の史緒が堪らなく可愛い。

「可笑しい?」

俺の気持ちを察知したのか不安そうに聞いてくる史緒を腕の中に収める。

「ほら、これで俺の匂いしかしないだろ?」

首元で深く息を吸い込むと

「んん、もっと、欲しい」

そう小さな声で言った。


 抑制剤の効果がないままヒート状態の史緒と交わるのは初めてだった。

首筋から立ち上るむせ返るようなフェロモンと体温の上がった身体は俺の思考回路まで狂わせる。

後ろに指を這わせるとまるでローションを仕込んだように愛液が止めどなく溢れてくる。史緒は深く舌を絡ませながら俺のものを強く扱いてあっという間に完勃ちにすると自分で挿れようと俺を跨いだ。

「ちょ、ちょっと史緒、ストップ!」

普段は割と受け身なタイプなのに今は別人の様だった。友人がヒート中のオメガは人格が変わった様にセックスに積極的になり、しかも数日続くからアルファも相当消耗すると本当に困っているのかただのノロケなのか分からない口調で言っていたのを呆れて聞いていた自分を呪う。

今、目の前にいる史緒が正しくそうだった。

史緒は俺が止めるのも聞かずに挿入し、喘ぎながら腰を振る。ナカは酷く熱く、ぴたりと吸い付いて結合部からいやらしい水音がしていてそれだけで脳内がバグりそうだった。

「史緒、ね、ホントちょっと待ってって」

対面座位から押し倒すと史緒の動きが漸く止まった。顔を真っ赤にしてふぅふぅと荒く息をする様子は扇情的で質量が増してしまう。

「あっ、おっきく、なった……」

「もー、エロ過ぎなの」

「陸、ナカでイッて。早く、お願い、ちょうだい」

「分かってる。お強請り可愛いね、史緒」

あまりに史緒のペースに持ってかれているので何とかイニシアチブを取ろうとするが、実際は次から次へと予想もしない言動で押されっぱなしだった。朦朧とする史緒に俺の声が届いているかも分からない。

グズグズになってる史緒をもう少し楽しみたい気もしていたが、一度ヒートを落ち着かせようと切替える。

 腹を掌で圧迫しながら徐々にストロークを深くして行く。奥に当たるとそこからイくために深い抽送を繰り返す。史緒はオメガ特有の華奢な体型のため身体が逃げないように抱え込んで結腸に捩じ込むとそのまま射精をした。

史緒はビクンと身体を痙攣させるとそのまま意識を手放した。

これで一旦落ち着くはずと史緒を抱き起こしてバスルームに向かう。

汗や体液を洗い流し、リビングのソファに横にするとホッとして一服したくなる。

史緒の部屋では吸ったことがなくて少し迷ってから換気扇の下で吸った。

汚れたシーツを洗濯機に放り込みスイッチを入れる。巣に使っていたシーツを敷いていたせいか幸いマットレスまでは被害は及んでいなかった。

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