第12話 【最終回】Todays coffee

 [Todays coffee]


 7月に入ると教員採用試験の一次試験があり、勉強漬けの夏だった。二次が8月、合否の発表は10月でそれは法科大学院を受けた水沢も同じだった。

とりあえず2人それぞれ合格し、ホッとしたところで拓未から合格祝いをしてやると飲みの誘いが入った。

拓未はバイト先だった有名進学塾から講師として正規雇用の誘いを内々に受けていたが、回答を保留にしていると以前言っていた。人間関係もそこそこ良く、待遇も申し分ないとは言っていたので、決めたのかと思っていたら断ったのだという。

「なんで?勿体ない」

「留学しようと思ってさ」と何か吹っ切れたような涼しい顔で言った。

「俺何でもすぐ諦めて楽な方行って、それなのにいつも他人が羨ましいって思っててさ。そういうの止めようって、一回くらいしたい事挑戦してもいいんじゃないかって思ってさ」

「カッコイイじゃん」創が冷やかす。

「間に合うの?」と聞くとTOEICなどは定期的に受験しており、推薦状など年内に書類が揃えば来年秋迄には問題ないとの事だった。

 英米文学にドップリ浸かって、知らない作品に触れたり活きた英語で翻訳のスキルを学びたいと珍しく熱く語っていた。元より成績もいいので奨学金もしっかり貰える見込みらしかった。

「えー、なんだよ。2人とも学生とか羨まし過ぎ」

「陸は恋人養うんだろ?働け!」

「養わないし」創に文句を言うと今度は拓未に

「一緒に住むんだろ?何処ら辺に住むの?」

「うん、俺の職場決まったら決められるんだけど、まだまだ」

「いいなー同棲とか憧れる」

「それなら創はまず彼氏だろ」

すかさず来る拓未のツッコミに

「そうなんだよねー」

人事のように相槌を打って残りのビールを飲み干した。

 

 この4年間何となく並んで歩いていた俺たちは、少しずつ自分なりの歩幅や行き先を見つけ始めていた。

 カルテットのアルバイトは年内いっぱいを予定していた。夏の忙しい最中も続けていたのは生活にメリハリをつけたかったことと、その間史緒と会えるのは店だけだったという理由も大きかった。

 俺たちは卒業のタイミングで二人で暮らす約束をしていた。ことある事に一緒に住みたいという俺を「卒業したら」と窘めていた史緒が約束を守ってくれたのだった。

 休憩時間にカルテットに行っても俺が居ないのが寂しいと言う史緒に

「これからは会いたい時はいつだって一緒なんだから」

右側を歩く史緒の手に指を絡め、薬指のリングを優しく撫でた。


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