第三十六話 大きくなって帰ってきた男
十一月。
良く晴れた空。
昨日降った雪が、地面にうっすら残っているが、歩くのに支障はない。
二人とも立派な衣で、前に
その
後ろには、一つ、人馬が付き従っている。穏やかな顔つきの男、顎にちょび髭がある。肩には
道を歩いていた郷の
が、ひっかかりを覚えた。
前をゆく馬に乗った、二十九か三十歳くらいの
さらに良く見れば、それは……。
「
馬の歩みが止まった。真比登は、じろり、と馬上から、
(こいつ、十二歳のオレに、石を投げつけた男だ。)
「いかにも。オレは真比登だ。今は、ここの
「はっ? 嘘だろ?」
「嘘じゃない。」
後ろの
その美貌。
切れ長の澄んだ瞳、形の良い鼻、桜色の小さい唇。
白い肌はきめ細かく、
(なんてぇ良い
(こんな良い
「ただの
「真比登、いや。」
と一言いった。
真比登が目を釣り上げ、怒気が放たれた。
「ひっ!」
(殺される……?)
真比登は、後ろの人馬に声をかける。
「
「はい。」
(えっ?)
ポカンとする
矢は、びゅん、と飛び、酢麻呂の足元の土に、さく、と刺さった。
「ぎゃ───! 死ぬぅぅぅ!」
実際は、まったく怪我はしてないのだが、酢麻呂は、へなへな、と、その場にへたりこんだ。
「オレは今は、ここ、
「はへっ?! はひっ!
すみませんでした! お許しください。」
酢麻呂は、がたがた震えて、うつむいた。
真比登の馬が、去りぎわに、
───イイイン!
といななき、後ろ足で
* * *
「あともう少しで、オレの家です。
ああ、懐かしいなぁ。
十六年ぶりかぁ。」
「あたくし、真比登の母刀自に、婚姻の許可をいただかなくちゃね。」
つまり、墓の前で。
三人は、真比登の家族の墓参りに来た。
「ふふっ、母刀自が生きていたら、腰を抜かしてますよ。
佐久良売さまは、美しい、天女ですから。」
佐久良売は、にこにこと微笑み、真比登の背中に、ぎゅっ、と抱きつく。
「うふふ。悪くないわね。」
「佐久良売さま、母刀自は、
名前を覚えてください。
佐久良売さまに、オレの死んだ家族を、知ってほしいんです。オレにとって、大切な家族でした。」
「いいわ! 真比登の事だもの。知りたいわ。教えて。」
「親父は、
オレの兄は、
姉は、
青空のした、笑顔の
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