第三十五話 都々自売の帰還
「
「
姉妹は、かたく
「よくぞご無事で。さあ、抱いてくださいまし。あたくしの息子、
「まあ!」
女官の
「可愛い!」
佐久良売は微笑み、
「あうう〜、あ?」
ずしりと重たく、腕はむちむちと柔らかく、肌がスベスベしている。
「
あんまりじゃないか?」
「い───んです! お姉さまが先なの!」
祖父となった
「じゃ、次、私に抱かせて……。私、祖父だぞぉ……。」
と
「次は寺麻呂さまの番です。」
と、佐土麻呂に言い放つ。
「そんなぁ……。」
がくり、と佐土麻呂は肩を落とす。
ちなみに、佐土麻呂は、焼けた正殿の脱出のさい、たいした火傷もなく、今は挫いた足も治った。
日頃の行いが良かったのであろう。
佐久良売が笑って、品の良い
「ふふ。寺麻呂さま、どうぞ。」
「佐久良売さま、ありがとう。」
寺麻呂は、戰ゆえ、生まれてからまだ一度も抱いていなかった我が子を、やっと、抱いた。
「
「そうですわ。」
「く……。」
それ以上、言葉にならず、寺麻呂は泣きはじめた。
「あぎゃーん!」
「わ、どうしよう。」
寺麻呂は慌てふためき、汗をかいた。
「困ったお父さまですねえ、
とあやしはじめる。
「うぅ。私、父親なのに……。」
寺麻呂は悲しそうにする。
「毎日、たくさん抱いて、遊んでやってくださいまし。
と
「早く抱っこしたい……。」
佐土麻呂が指をくわえて、孫を見る。
「い・ま・泣・い・て・ま・す・わ!
あとにしてくださいまし。
これからは、一緒に住むのです。
いくらでも、機会はありますわ。」
真比登はつい、
「ふふっ。」
と笑ってしまい、佐土麻呂にじろり、と見られた。
(うっ。)
真比登は愛想笑いをして、視線を泳がせた。
「
戰の勝利に、多大な貢献をなさったと聞きました。
心から感謝いたします。」
「
真比登は礼の姿勢をとり、
「オレはもう、征討軍の
今は、
「ああ。そうでしたわね。」
寺麻呂が、
「真比登殿は、まこと
そのような方を、衛士団長に迎えられて、こんなに頼もしいことはない。」
と、真比登を見て、
「あたくしも嬉しいですわ。」
「ほっほっほ……。」
と上機嫌に笑う。
「寺麻呂さま、やっと一緒に暮らせるのですね。」
「そうだ。
二人は幸せそうに微笑み、見つめあった。
塩売が、
「
と若大根売に不思議そうに
佐久良売がそっと、
「塩売。
婚姻の約束をして、でも、婚姻をする前に、夢を追って、奈良に行ってしまったわ。
もう半年も前の事よ。
それでね……、
「えっ!」
塩売と、
「すみません……。寺麻呂さまを見ていて、源も帰ってきたら、あたしがいずれ産む緑兒を、こんなふうに抱っこしてくれるのかな、と思ったら……。」
「
佐久良売が
* * *
佐久良売、
女同士で、ゆっくり、
「お姉さま。
にゃあん、と鳴く、姉妹が幼い頃から一緒にいてくれた猫。
白い毛、黄色と
姉妹の膝にのり、ごろごろと喉を鳴らし、したっ、したっ、と尻尾を揺らしていた、愛らしい猫は……。
佐久良売は、
「……
「そう……、里夜は、
お父さまを、お姉さまを、守ってくれたのかもしれません。」
「ええ。」
佐久良売は、燃える
(もしかしたら……。あれは、
「もう、
「ええ。」
姉妹は、抱き合って、泣いた。
* * *
山の上の屋敷は、再建されなかった。
もちろん、山裾に広がっていた家々には、
平地には、人々の暮らしが戻り。
山の上は、今後は、ただの山として、長い年月がたてば、緑に覆われていくのだろう。
トイオマイの地は、
蝦夷は完全にいなくなり、
開墾を始めたばかりの年は、
しかし、その温情は、いつまで続くか、わからない。
しかし、大きな懲罰といったものはなく、
そう、ここは、
真比登が生まれ育った、
真比登は、
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