第十六話  イウォロソの地へ向けて

 十月。



 夜、真比登は佐久良売さまの部屋を訪れる。


 真比登は愛おしい妻を抱きしめ、しっとり艶のある髪の毛に右頬を寄せた。

 ふわり、と佐久良売さまの衣被香えびこうの、涼やかな香りが鼻先をくすぐった。


「佐久良売さま、喜んでください。

 やっと、明日、この戰は終わりますよ。我々の勝利です。」

「本当に……? 本当に終わるの?

 信じて良いの?」

「本当です。信じてください。」

「……あたくし、怖い。ずっと、戰が今まで続いてきて、終わるというのが、なぜか信じられないの。

 あんなに、戰の終結を待ち望んでいたのに。」

「佐久良売さま! 大丈夫です!

 本当に終わるんですよ。」

「真比登……。無事に帰ってきて。

 。」


 佐久良売さまは、真比登の胸に顔を埋めた。




    *   *   *





 佐久良売は、はだかで真比登の上にまたがり、甘い声をあげ、たくましい真比登の屹屹きつきつとした部分を楽しんでいた。


 腰をおろす。

 その時に感じるのは、快楽くわいらくというより、おみなの壺を狂おしく塞ぎながら、ずん……、と身体に響く、重い衝撃。

 

 そのあと、腰を上にあげると、塞がれている感覚がフワとなくなり、内側を(こす)られ、えもいわれぬ快楽くわいらくを、おみなの壺がしょうじさせる。


 衝撃と、が交互にやってくる。


 佐久良売はあえぎ、自らなまめかしく、腰をふる。


「佐久良売さま、愛しています。

 勝利をあなたに捧げます。」


 真比登が上になる。

 足を開かされ、大柄な真比登が上にのったので、佐久良売の膝が寝床に押し付けられ、ぐっ、と真比登の体重がかかり、重たい。

 

「オレの天女!」

 

 される。

 屹屹きつきつとしたものが、おみなの壺を滑り、突き、奥まで達する。

 

「あぅっ……! 

 嬉しいわ、真比登……。無事に帰ってきて。」


(怖いの。

 なぜ?

 胸がザワザワする。

 怖がる必要はないと、あたくしに教えて。

 真比登、あなたでいっぱいにして。

 何も考えられなくなるほどに……。)


「真比登ぉ、もっと……。」


 真比登の首に腕をからめ、潤んだ目でお願いすると、真比登が、にこっ、と笑って、優しい口づけをしてくれた。

 佐久良売の言葉に応えて、ますます、たけり、強くす。


「うっ……。」


 佐久良売は、押え込まれた姿勢で真比登の勢いを受け止める。

 受け止めきれていないかもしれない。

 尻、腰、背中が寝床にめり込むように押し付けられ、細身の身体が震え、ギシッ、ギシッ、ミシッ、と寝床の床が鳴る。


「あぁん、良い……。」


 重い衝撃と、られたことによる渾然こんぜん一体いったいと混ぜ合わさり、佐久良売は恍惚こうこつとなる。

 

 ふっ、と身体が軽くなる。

 真比登が身体をどけたのだ。

 そのまま、腰を抱えられ、尻が浮いた。

 頭、肩、両腕、左足のみで、身体を支える。

 膝立ちになった真比登の腰に、腰を縫い付けられ、佐久良売の右足は空中に浮き、真比登に押し刺されるたび。


 ───ゆら、ゆら。


 と揺れる。

 仰向けの、佐久良売の乳房も。


 ───ふるん、ふるん。


 と揺れる。

 佐久良売は両腕を寝床について身体を支え、真比登も佐久良売の腰を両手で持っているので、誰も、乳房が奔放ほんぽうに揺れるのを止められないのだ。

 真比登は揺れる胸をうっとりと見ている。


 この不安定な姿勢は、真比登は思うがまま、深く、根元まで、角乃布久礼つののふくれを突き立てる事ができる。


 一方、佐久良売は腰が自分で動かせない。

 真比登に腰を持たれ、固定されている。

 ただ、真比登に突かれるのを待ち、を注いでもらうのを待つだけ……。


 自分で腰をふれないことで、のたうつが、佐久良売の身体のなかで凝縮し、暴れようとする。その濃いは、気が狂いそうになるほど……。


「あぁん、良いっ!」


 佐久良売は、自分で腰を振るのも、腰を固定されてこごらせるのも、好きだ。


「佐久良売、さま……っ!」 


 真比登が動きを速める。

 身体ががくがくと揺らされ、乳房が、ぶるぶると激しく揺らされる。

 ほとばしるあまりのに、


「ひぁ……………!」


 佐久良売は舌をだし、頭まで、白くなった。

 

 



    *   *   *

 



 翌朝。



 整列した兵の前で、鞍上あんじょう真比登まひとが、全軍に発破はっぱをかける。

 真比登の声質は甘く、それでいて良く響く。兵のはしまで届く。


「良いかあ! 今日こそはイウォロソの地をとる!」


 賊奴ぞくとの首領、トイオマイの郷のまわりは、湿地が広がっている。

 トイオマイの郷を攻めるには、西の林を抜けたあと、広い一本道になっている場所、イウォロソの地を通り抜けねばならない。


 その一本道の左右には、身を隠せる岩陰、木が豊富にあり、蝦夷の兵が身を隠しやすい。


 日本兵は、まだ、この、イウォロソの地を占拠できていなかった。


「イウォロソの地さえとれば、我々の勝利は、すぐ目の前だ!

 この長い戰いに、ようやく決着がつく!

 わかってるな!

 進攻も退却も?」


 六千人の兵士が唱和する。


「命令通り行うべし!!」

「そうだ! 敵に威力を?」

「振るっていどむべし!!」


 野太い男たちの声が、桃生柵もむのふのきの広場を揺らす。


「そうだ! 命を?」

「投げ出して危険を冒すべし!!」

「そうだ! 一生を?」

「顧みず勝利飾るべし!!」

「勝利飾るべし!」


 真比登が拳を上に突き出す。


 勝利飾るべし!

 勝利飾るべし!

 勝利飾るべし!


「良し……、行くぞ! うお───!」


 真比登の雄叫びに、皆、


 ───うおぉぉぉぉぉぉぉ!


 雄叫びで応える。

 そのなかに、紅一点、おみな古志加こじかの、


「うお───!」


 と気合いの入った声が、うららかに、混じっていた。





 カァン……。カァン……。カァン……。カァン……。カァン……。




 しょうが五回、打ち鳴らされる。移動の合図だ。


 

 真比登は、移動しながら、擬大毅ぎたいき(副官)、チョビ髭の五百足いおたりに、馬上で目配せする。


「わかってるな?」

。」


 五百足いおたりは、心得ています、とうなずく。

 実は、昨日のうちに、真比登は、五百足いおたりに、ある命令をくだしていた。


「イウォロソの地が落ちれば、もう、トイオマイの郷まで阻むものはない。

 木の柵はあるが、そんなものはなんとでもなるからな。

 もうじき、戰が終わる。

 五百足いおたり寺麻呂てらまろさまが死なないように、密かに護衛しろ。」

「えっ?」

「佐久良売さまの同母妹いろも都々自売つつじめさまのつまが死んだら、佐久良売さまが悲しむ。

 寺麻呂さまは、長尾連ながおのむらじの跡取り。死んだら困るお方だ。

 明日は、トイオマイの兵士の猛攻にあうだろう。

 もう、奴らには、後がない。

 対してこちらは、あともう少しで戰が終わりそうだ、と、気が緩みがちだ。

 加えて、寺麻呂さまは、正義の心にあふれたお方。

 そういうお方は、こういう時に、死ななくて良い場面で、あっけなく死にやすい。

 寺麻呂さまを、しっかり見張っておけ。」

。」

「オレのいのちより、きの朝臣あそん広純ひろずみさま(大川の後釜あとがまの副将軍)の命より、寺麻呂さまの命を優先しろ。」

「…………。」


 五百足いおたりは、真比登の命より優先、というところで、渋い顔をした。


「オレは、自分の命は守れる。それより、寺麻呂さまを守れ。───返事は?」

「……。」


 五百足いおたりは、不承不承ふしょうぶしょううなずいた。


(頼んだぞ。五百足いおたり。)





    

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