第十五話 若大根売は旅の空を思う。
お姉さまへ。
昨日は、
佐久良売さまの、
びっくりなのは、古志加です。
佐久良売さまは、
───この時は、右上を見なさい。視線の動きと、首の動きを連動させなさい。
性急に動かさない!
ゆっくり、ゆっくり、視線を移動させるんですよ。
という指示に従って、舞いながら流し目を送るんですが、あまりに色っぽくて、
古志加って本当に
きっと、あの団子のようにツルッとした顔の従者も、この古志加を見たら、
そう、呑気に思っていたら、なんと今日、佐久良売さまが、
───ほほほ、
と優雅に笑って、あたしに東舞を教えてくださいました。
うえーん!
ふぎゃーん!
舞って大変ですぅぅぅ!
あたし、何回もころんでしまいました。
───あなたも、
きっと、喜ばれるわよ。
佐久良売さまは、そう言って、微笑んでくださいました。
お優しいです。
でもあたしの膝は、ころんで打ち付けて、じんじんです。
ひーん……。
お姉さま。
源は無事に旅しているでしょうか。
あたしは今日も、源の眼差しを思い出して、眠ります。
* * *
お姉さまへ。
無事、佐久良売さまに、舞の合格を頂戴しました。
やった、やった!
これであたしも、平城京の采女みたいな優雅な舞姫です。
なんちゃって!!
きゃっはー!
お姉さま。あたし、佐久良売さまに、源たちの道行きを教えてもらいました。
───源たちが行く道の名前は、
道幅は、五
奈良から最短距離を得るために、山あいなどを除いて、平らな道が、まっすぐ、ひたすらまっすぐ伸びる。
三十
大川さまが一緒なので、源は、駅家を使って旅をするでしょう───。
と、佐久良売さまが教えてくださいました。
源は、今、どのあたりを進んでいるのでしょうか。
道中、無事でありますように。
* * *
お姉さまへ。
今日は雨が降りました。ざーざー降りです。
佐久良売さまは、
小鳥売と大椿売が並ぶと、二人ともふっくらなので、福を感じます。
良いなぁ、あたしももっとお肉が欲しいっ!
───大椿売、
困ったことはない?
佐久良売さまは素晴らしいお気遣いです。
───佐久良売さま。あの……、順調です。でもあの、その……。
───何かしら?
───あたし、なんでかしら、初めてなのに、初夜もすっごく良かったんです。こんなに気持ち良いとは思わなくって……。
母刀自には、さ寝は、はじめは、そんなに良くは感じない、と教わりました。
あたし、変なんでしょうか……?
佐久良売さまは、
───まあ!
と目を丸くし、小鳥売が、
───わかるわあ! あたしも、
初めてだけど、気持ちよかったわ!
と言ったので、あたしもつられて、
───わかるわぁ。あたしも源が……。痛いは痛かったけど、こんなに気持ち良いものかと、びっくりしたわよ。
と照れながら言ったら、佐久良売さまが、
───まあ! まあ! ほほほ……。
皆、仲が良くてよろしい事ね。
大椿売、安心なさい。初めてで、気持ち良いか、そうでないかは、人それぞれよ。
嶋成さまは頑張ってくださったのね。
あなたの
───はい、ありがとうございます。佐久良売さま。
大椿売は安心したようです。
さすが佐久良売さまです。
次に、佐久良売さまは小鳥売の方を向いて、
───小鳥売、何も心配はいらないようね。
今後、何か困ったことがあったら、あたくしに相談なさい。
あなたの
夫婦円満であることは、ひいては、
───ありがとうございます。心強いです!
小鳥売は、ふっくらした顔で笑いました。
───
佐久良売さまは、しばらく無言で、あたしをご覧になりました。心に
───あなたの恋いしい君は、あなたを置いていってしまったけれど、良き夜が過ごせたようね。
良かったわ。
───はい、佐久良売さま!
そこまで言ったら、あたし、ぽろっ、て泣いてしまいました。
佐久良売さまがあたしを抱きしめてくださって、小鳥売と大椿売も、あたしを撫でさすって、慰めてくれました。
源が恋いしいです。
あたしを二晩、抱いて、旅立ってしまった人。
また会いたい。
源に笑顔で見つめられ、抱きしめられ、裸の胸に、顔を埋めたいです。
またあの、幽玄の森で身体が夜空に浮かぶようなさ寝を、あたしに与えてほしいです。
それを夢見て……。
また今日も眠りにつきます。
この降り止まぬ雨は、旅する源も、濡らしているのでしょうか……。
風邪などひきませんように……。
源の無事を祈ります。
* * *
───多賀城を発し、
パシャパシャ……、雨のふるなか、水たまりを踏む馬の
「明日は
と、旅する一同に告げる。
無表情な三虎がふりかえり、
「どうした?」
と声をかける。
「オレの
「そうか。」
三虎は、つきあってられん、というように、源を置いて前に進んだ。
(
離れていても、オレの魂の
きっと、そのように、
離れていても───。
愛してるよ。)
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