第六話 猫の里夜
* * *
(775年、
五月。
夜。
「大変!
「はいっ!」
佐久良売のお付きの女官、
佐久良売は、元気のない里夜の背中を、そっと撫でる。
「
白い毛に、黄色と
「にゃん……。」
里夜は、大丈夫です、というように、佐久良売の手に頬をすりつけた。
「ふふ……。」
佐久良売は、里夜を愛おしく抱き上げ、胸に抱いた。背中を撫で続ける。
「おまえがここに来たのは、
「にゃん。」
まるで話がわかるように、返事をする
(
あたくしは、覚悟をしなくてはならないのだろうか。)
里夜は、心の支え。なるべく、長く、元気で生きていてほしいと、佐久良売は切に願う。
佐久良売の顔を見て、佐久良売の手を、ぺろ、と舐めた。
きっと、佐久良売が不安そうにしているのを感じ取り、慰めてくれたのだろう。
「
(大丈夫、大丈夫よ……、不安になることはないわ……。
あともう少ししたら、真比登が今宵も、あたくしのもとに来てくれるわ。
あたくしの
真比登の顔を見たら、あたくしはいつものように、落ち着くことができる。)
「佐久良売さま。」
真比登の声がした。
「真比登。」
佐久良売は嬉しくなり、笑顔が自然と浮かぶ。
(真比登が怪我をするなんて!
怪我を……。
真比登が死んでしまったら、どうしよう!)
佐久良売は恐怖に包まれ、
「きゃああああ……!」
と悲鳴をあげた。驚いた里夜はあわてて下に着地し、逃げだした。
「真比登、どうしたの、その怪我。あなたでも怪我するの、嫌っ、嫌……。」
ぼろぼろ泣きながら、
「佐久良売さま……、怪我してすいません。矢を避けそこねて……。
でもかすり傷でして、すぐに治ります。」
「やっ! 嫌っ! いやいやっ!
怪我なんてしないで真比登、あたくし怖い。
あ……、し……、死んだら、あなたが死んだら、あたくし置いていかれたら、生きてはいけないわ。怖い。」
「すみませんでしたっ! 本当にごめんなさい!」
真比登が叫んで、佐久良売を強く抱きすくめた。
愛しい男の胸で、佐久良売は大粒の涙を流した。
「お願いよ真比登。あなたが、毎日戰場にでても、無事にあたくしのもとへ帰ってきてくれると信じているから、あたくしは心の平静を保てているの。
そうでないと、戰場のさなかの
真比登。
真比登……。
愛しているの。」
「佐久良売さま。オレも、愛しています。オレの天女。オレは、無事です。もう泣きやんでください。」
真比登が、熱い口づけをくれた。
まだ、泣き止むことができない。
佐久良売は自ら帯をほどき、
「あたくしを、ちゃんと安心させて。」
はらり、と
「はいっ、頑張ります。」
真比登がこう言うからには、本当に頑張ってくれるのだろう。
期待で胸が震え、佐久良売は微笑むことができた。
* * *
寝床の横には、空になった小さな
部屋には蜂蜜の甘い匂いと、
身体は大柄で筋骨逞しく、首も、肩も、筋肉で大きく盛り上がり、背中には汗が光っている。
体格差が
細身でありながら、乳房はたわわに見える。
そこまでおおぶりではないのだが、ツンと上を向いた丸い形と、薄い肩、細い腰との兼ね合いで、豊かに見えるのだ。
女は、くわいらくが途切れる事を好まないからだ。
「あぁ、真比登ぉ………、もっと……。」
と甘えた声をだす。
「もう、駄目。欲しい。」
と、とうとう口にした。
奉仕しきった
とことん、
「───ンッ。───アッ。愛してるわ、真比登。」
「佐久良売さま。オレもですっ!」
雨上がりの小山のような、汗の伝う男の背中ごしに、白く柔かそうな足だけが。
ゆら。
ゆら。
と揺れている。
かぐわしい
ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、と、寝床の床が激しくきしむ。
あたりにはまだ、蜂蜜の甘い匂いが、濃厚に
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