第七十七話  瑠璃の腕輪、其のニ。

 初めは、痛いものです。

 気持ちの良いものでもありません。

 耐えなさい。

 夜を重ねるうちに、おみなにも快楽くわいらくがわかるようになってくるものです。

 上毛野君かみつけののきみの跡継ぎのねやに呼ばれたら、従順におのこに任せなさい。

 痛い、と口走りそうになったら、布を噛んで耐えなさい。


 大丈夫よ───、あなたは誇り高い車持君くるまもちのきみの娘。何も心配はいりません。



 そう、母刀自ははとじからは、教わった。





   *   *   *





 大鍔売おおつばめは寝床に横たわる。

 嶋成しまなりと見つめ合い、ゆっくり目を閉じ、唇を重ねる。

 嶋成の唇は、そのまま下に動き、首筋を、胸元を、唇が伝う。

 軽い感触。

 恥ずかしく、ちょっとくすぐったく、気持ち良い。


 嶋成の手。


 あたしが、どんな感触なのかしら、と、憧れていた手。

 あたしの手とからめると、あたしより大きく、剣のたこがあり、水仕事でささくれだっている。

 兵士の手だ。

 手のひらはかたく、そして、あたたかい。

 この温かさは、きっと、嶋成の持つ心の温かさか、と思う。

 その手が、あたしの身体を撫でてゆく。

 足首から、太もも。

 太ももから、腰をためらいがちに撫で、下腹のふくらみを、ふよふよと揉み、へそから上、谷間にのぼる。


「ん……。」


 気持ちが良い。

 唇が唇を塞ぐ。

 濡れた舌がはいってきた。


(きゃ……。)


 気持ち良くて、……ぞわっとする。

 舌が口のなかのあちこちを伝っていく。

 恥ずかしくて、どうしたら良いのかわからなくて、あたしの舌は逃げる。

 逃げると、嶋成の舌が追いかけてくる。

 逃げ切れない。

 戸惑うあたしの舌に、嶋成の舌がからむ。

 からみつき、優しく、舌を吸い上げられた。

 その例えようもない感触に、


(ひ……。)


 胸がドキドキする。

 じわっと、おみなの壺の奥深くが潤む感触を感じた。

 嶋成の手が乳房に触れ、あたしのおおぶりな乳房をふんわりと揉んだ。


「うっ……。」


 口から声がでる。

 ふわ、ふわ、と揉まれるたび、えもいわれぬ快楽くわいらくが沸き起こる。

 そのうち、ふんわり、どころでなく、激しく揉みしだかれた。


(あれぇ?)


 乳房ってこんなに形がかわるのね……。

 嶋成の手のなかで、寄せられたり、上にいったり、下にいったり、乳房はこねくりまわされ続けて、同じ形を保たない。


「あっ。」


 乳首がいじめられる。

 つまみ、はじき、つまみ、揺らされ、つまみ、また無数にはじかれる。

 嶋成が乳房に吸い付いた。

 しゃぶり、乳首を舌先でつつき、なぶり、吸い上げる。

 力加減が絶妙だ。

 痛くない。でも、びり、と快楽くわいらくを感じるところまで、刺激が与えられる。


「あああ!」


 ぱん、ぱん、と音がする。

 嶋成が乳房の下を持って、左右から乳房を揺らし、中央で打ち付けるからだ。

 ぱん、と中央で乳房と乳房がぶつかると、淡い衝撃が乳首まで走り、不可思議な快楽くわいらくを味わう。

 嶋成は気ままに、乳房を揉み、吸い、打ち付けた。


 嶋成の顔はにこにこ楽しそうに笑っているのだが、あたしの顔は初めてのことに驚愕しっぱなしだ。


 寝床にうつぶせにされ、嶋成が上からおおいかぶさり、肩を、背中を、腕を、さーっと撫でていく。


「ひぃ…………。」


(どうしてそれだけでこんなに気持ち良いのー? どうしてぇ?)


 嶋成の手に全身撫でられる心地よい感触に、たくさんいじられた乳房が、今は触れられていなくても、じんじん、快楽くわいらくの熱を放っているように感じる。


「ふんふん、むっちり太ももー。」


(鼻歌うたってるわこの人……。)


「桃尻。」


(ちょっと恥ずかしいわ……。)


 下をむいたまま、腰を上にぐいとひかれた。


(あっ。)


 あたしは膝をつき、尻を高く掲げる姿勢になった。

 足を開かされる。

 なんという恥ずかしい格好か。

 そのまま、見えない後ろから、嶋成の唇が女の壺に触れた。


あなやぎゃーー!」


 あたしは驚いて、逃げようとした。

 腹を後ろから抱きかかえられ、再び、尻を高く上に掲げさせられてしまった。


(ひー! 恥ずかしいぃぃ! さ寝ってこんな事するの?)


 ぴちゃぴちゃと、雨だれのような音がする。

 柔らかい舌が、あたしの女の壺を丁寧にねぶり、ぬるりと奥まで侵入しようとする。

 あたしはどうしようもできなく、ただ顔を寝床に押し付け、身体を、びく、びく、と震わせながら、寝床を握りしめる。

 左腕の雑色ぞうしき瑠璃るりの腕輪が、汗に滑りながら、光を放つ。


 舌が、女の芯に触れた。


 今までと比べものにならないほどの快楽くわいらくの火が、女の芯から全身に走った。


「ひぁ!」


 たまらず、尻が跳ねた。

 気持ち良い。

 恥ずかしい。

 気持ち良すぎて怖い。


「や、やぁ……。」


 あたしは頭をふりふり、とうとう、嫌だと意思を示すが、


「大丈夫、任せてください!」


 と明るく力強い答えが返ってきた。


「やあぁ……。」


(恥ずかしいんだってばー!)


 でも、逃げ出そうとは思わない。

 この、あたしの恥ずかしいという気持ちも、全部ふくめて、今宵、あたしを嶋成に捧げると決めたから。


「やあ、あ──────!」


 おそらくそれは小さなさゑさゑなのだろう、波の大きな果てまで、嶋成の舌と指で連れていかれてしまった。


(こ、こんななの……?)


 呆然と仰向けになり、力が抜けたあたしの尻の下に、嶋成が、荒布をひいた。

 足を開かされる。


「…………。」


 嶋成が、角乃布久礼つののふくれをあたしのおみなの壺にあてがった。


「う──────!」


(痛い痛い!)


 あたしはたまらず、寝床の横に何枚も用意していた荒布を口で噛んだ。

 今、どれくらい角乃布久礼つののふくれおみなの壺を進んでいるかは、わからない。

 とにかく、あたしの股の間に、嶋成によって暴力が加えられている事だけがわかる。


「うらぐわし児ころ、大鍔売、愛しています。」


 嶋成があたしの頭を優しく撫でた。

 そしてあたしを抱きしめ、腰をひき、突き、それを繰り返しはじめた。


(痛い痛い……。)


 しかし嶋成をなじろうとは思わない。

 おのこおみなのさ寝とは、この痛みを乗り越えなければならないものなのだ。

 だから耐える。

 寝床の布団、その下の床板が、ぎっ、ぎっ、ぎっ、と音を立てる。

 尻の下が濡れている。

 おそらく、あたしの血だ。


「うー。」


 荒布を噛んで耐えていると、ぱちりと何か頭で弾けたように、痛みが遠のき、嘘のようながやってきた。


「あっ、あっ…………!」


 嶋成が強く、あたしに腰を打ち付ける。そのたびに、全身、波にさらわれるようなが押し寄せ、腰がふわーっと蕩けそうな心地を味わう。


(あたしの腰、どうなっちゃってるの……?

 初めてなのに、こんなに気持ち良いなんて。)


「あぁ……………………。」


 あたしはおおいに乱れた。

 今宵、一夜だけなのだ。

 嶋成に、とことん、愛されたい。

 首をふり、腹をくねらせ、嶋成の手に導かれるまま、腰を上下に動かし、下腹を、乳房を揺らした。

 左腕の雑色ぞうしき瑠璃るりの腕輪が、あたしの揺れにあわせ、きら、きらと乱れ光った。

 は素晴らしく、嶋成と肌と肌をぶつけるたび、あたしは夢心地になった。


「大鍔売、オレの、妻に……。」


 そのような甘い言葉とともに、嶋成は精を放った。





    *   *   *






 あかときと  かけは鳴くなり


 起きよ起きよ


 一夜夫ひとよづま  人に知らゆな






 旭時等あかときと  鶏鳴成かけはなくなり  

 起余々々おきよおきよ

 吾一夜夫あがひとよづま  人尓所知名ひとにしらゆな






 暁になったと、鶏が鳴いてるわ。

 起きて起きて、あたしの一夜夫。

 寝すごして人に知られないで。







    *   *   *




 ───しついついつらコーケコッコー、しついついつら───




 大鍔売おおつばめは寝床を飛び起きた。


「もう、鶏が鳴きはじめたわ!」


 朝だ。

 十人部屋の女官が起き出して、大鍔売おおつばめの一人部屋からおのこが帰るのを目撃されたら、恥ずかしいなんてものじゃない。顔から火を噴いて死ぬ。

 だいたい、おのこが女のもとに通う時は、人に目撃されないように、夜明け前に帰るものだ。


「起きて、起きて嶋成!」

「んー、むにゃむにゃ……。」


 隣で寝ている男を揺さぶる。


「起きてったら!」

「わあい、毛桃けもも……。もにゃもにゃ……、食べるぅ……。」

「起きてっ!!」


 寝床は、床より一段、高めに作ってある。

 大鍔売は一夜夫ひとよづまを遠慮なく、寝床より下の床に転がし落とした。






 左腕には、全てを見届けた雑色ぞうしき瑠璃るりの腕輪が輝いていた。


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