第七十三話 さねてやらさね、其のニ
容姿端麗な
机の上に置かれた、
透き通る白い肌。麗しい微笑みに、何の感情であろうか、少しの影が落ちた。
輝きを放つ美貌に、複雑に
「……時に
その
まったく好きではなかった
そしたらね……。まったく、気持ちよくなくて、
「まあ……。」
いきなり何かの話が始まった。
(何かしら?)
と大鍔売はパチパチ
(それにしても、酷い話ね。)
* * *
佐久良売は、言葉をつむぐ。
この年若い
「
その
「その男も酷いですわ。」
「そうよね?」
佐久良売の眉根に、つい力が入る。
(
まったく、このあたくしに偽者と縁談させるなんて、失礼極まりないわ!)
「当然、偽りはばれました。
「ええっ?」
「驚くわよね?」
(無理もないわ。)
ふふっ、と佐久良売は笑う。
「その
また、その
(そう、今ではすっかり許してる。
だって真比登は愛しいもの……。)
「それでね、ここからが肝心なのだけど……。
その娘子と益荒男は、真実、
それと同時に、娘子は、後悔したの。
なぜ、
益荒男に、清い自分をあげたかった。
なぜ、この身を汚してしまったのだろう、と。」
佐久良売は思い出す。
真比登の
「佐久良売さま、平城京の
こういう事は訊かないほうが良いのかもしれませんが、その……、今まで何人くらいと……。」
と、言いづらそうに訊かれた事がある。
その時の真比登の目には、濁りのない切ない色があって、佐久良売は悲しさがこみ上げた。
───あなたよ。
あなたが初めてで、あたくしのたった一人の
そう言えたら、どんなに良かっただろう。
佐久良売は過去の自分の行いを恥じた。
「そう、あなたが初めてでは、ないわね。
でも、忘れました。
あたくしが過去、相手にした
あたくしは、騙されたの。
あれは気の迷いだったのよ。
もう、名前も顔も、思い出すこともありません。
あたくしには、あなただけよ、真比登。
あたくしの
あなたの逞しい身体は、あたくしを酔わせるわ。
あたくしの身体も心も、あなたのものよ……。」
そう、真比登に閨で告げたのだった。
* * *
大鍔売は、きっとこれは、佐久良売さまの本当のことなのだろう、と思った。
(そんなに、
本当の
以前、佐久良売さまの
あたしはなんて酷い事を言ってしまったのだろう。)
あたしは
「佐久良売さま、あたし、以前、佐久良売さまの
と謝罪をした。
「もう、とっくに許した事ですわ。
それに、これは、どこぞの
佐久良売さまは、大人の落ち着きを持って、笑ってくださった。
「大鍔売。そこまで嶋成を恋うているなら、己を捧げなさい。
それは、身を汚すことではありません。
……そうねぇ、いつかこの先、家の定めた
あたしは、ぎょっとして、
「そんな事言えるわけがありません!」
と大きな声を出した。
「……あぁ、大川さまのお手つきだと、権益がからんで、まわりが
じゃあ、大川さまの従者あたりに手をつけられたって言っておけば良いのよ。ほほほ。」
* * *
その頃。
湯屋で衣を脱いだ副将軍、大川が、
「へくしゅっ。」
とくしゃみをした。従者の三虎が、
「おや、いけません。早く湯船に浸かってください……へあっくしゅ!」
続けてくしゃみをした。
* * *
(ええ───っ? 何を言ってるのこの人……。)
大鍔売は、のんきにとんでもない事をいう年上の
「さっ、佐久良売さま……。」
「良いのよ、
「でももし、
「ほほ、すぐにできるとも限りませんわ。もし、できたら……。あたくしのもとに逃げていらっしゃい。」
「え?!」
「あなたと
「どうしてそこまで……。」
「ほほ、あたくしは自分の言葉に責任を持ちます。」
佐久良売さまが、大鍔売の手を握った。
「大鍔売。ここは戰場。嶋成さまだって、いつ死ぬかわからないのよ? もしかしたら、明日はもう、生きて帰ってこないかもしれない。
それを忘れないでね。」
* * *
お姉さまへ。
大きい女官、
はあ……。
源に聞いてみたくもあるし、聞きたくないような気もします。
源は、いつになったら、あたしを
ももも、もし。
もし源が、今夜は朝まで一緒に過ごしたいって言ってきたら、あたし、覚悟はできてますのに。
きゃ──────っ!
言っちゃった。
はあ……。
源は、とっても優しくて、一緒にいると、手を握ったり、別れる間際に、口づけをくれたりしますが、それ以上はせまってきません。
それでも源もケダモノなのでしょうか……。
大鍔売ですが、嶋成さまに、
結果は、有り。
大鍔売は驚きのあまり、張り手をしたそうです。
あたしも源が有りと言ったら、大鍔売と同じことをしてしまいそう。
この質問は、しないでおくのが賢明ですね。
佐久良売さまは大鍔売に、さ寝てやらさね、とおすすめになり、
───嶋成さまだって、いつ死ぬかわからないのよ?
とお告げになりました。その際、佐久良売さま、うっかり、嶋成さま、と言ってしまったんです!
嶋成さまが、本当は
あたしは叫びそうになりましたが、ふんぐ! と顔面に気合を入れることで、奇声を発することを
幸い、佐久良売さまも大鍔売も気がつかなかったようです。
ふ───っ、危ないところでしたわ。
さあ、明日は、上手くいけば、大鍔売の良い報告ができますわよ。
ふふふふ、たぁーのしみ───っ!!
* * *
(※注一)
ちなみに、
(※注ニ)さ寝……男女が素晴らしい夜を過ごすこと。
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