第六十話 も、もう我慢なりません!
夕刻。
「どうした?」
と迎える。
「
今宵は早めに佐久良売さまのお部屋にお顔を見せて欲しい、との事です。」
真比登は、途端にそわそわし始めた。
チョビ髭の
「真比登、早く佐久良売さまのところに行ってやれよ。ここはもう良いから……。」
と雑事は全て請け負う。
「ありがとう、
真比登は風のように、愛しい
残された
* * *
真比登が佐久良売さまの部屋につくと、
「真比登……。」
と、泣きはらし、目元の赤い佐久良売さまが、真比登の胸に飛び込んできた。
「今日は早いのね。嬉しい。」
「小鳥売が、早く来るようにって、
「まあ!
佐久良売さまは真比登の腕のなかから、お付きの女官を見て微笑む。
「はいっ!」
部屋には二人きり。
「真比登、真比登、今日、今日ね……。」
佐久良売さまは、そう口にしたあと、続きを言うのが辛い、というように、真比登の胸に顔を埋めた。
「簡単に聞きましたよ。オレの容姿を新入りの女官にあてこすられたって。……
「…………。」
佐久良売さまは、泣き顔で、真比登を見上げた。
「そうよ。あなたの事を醜い
「オレが醜い
(それ以上のことも。)
「今更、です。オレは気にしませんよ。」
「ううう……っ。」
しくしくと、佐久良売さまは、真比登の胸で泣きはじめた。
「あたくしの
うっ……。
あなたが、どんなに、頼りになって、細やかに愛してくれて、素敵な
ひっく……。
あたくしにとって、どんなにかけがえのない、大切な人なのか。何も知らないくせに!
ぐすっ……。
真比登は、こんな屈辱に、今までずっと耐えてきたのね。あたくし、胸が張り裂けそう。」
「佐久良売さま!」
真比登は愛おしさがこみあげて、佐久良売さまをぎゅーっと強く抱きしめた。
佐久良売さまは、ちょっと苦しそうに息をつめる。
でも、じっとして、真比登の抱擁を受け入れてくれる。
「も、もう我慢なりません!」
真比登は佐久良売さまを解放すると、素早く部屋の
部屋が夕焼けの色から、影の色にかわる。
蝋燭も灯していなかったので、暗い。
でももう、暗かろうが、かまわない。
蝋燭を灯す時間も惜しい。
さ寝をするには、少々早い時間だ。
「かまわないですね?」
真比登は、ふんふん鼻息荒く、ぽかんとした顔の佐久良売さまを抱き上げた。
* * *
(そんなに、あたくしが欲しいのね?)
鼻息が荒くとも、優しく微笑む真比登が、愛おしい。
佐久良売は、くすりと笑い、真比登の首に腕をまわす。
寝床で、
深く、深く。
肌は汗で潤い、
(愛している。
心から、愛している。
真比登……。)
「あぁ…………………………。」
真比登の逞しい身体が、佐久良売に勢いを持ってぶつかる。
真比登の想いが、愛が、その手、その腰、佐久良売を見下ろすその眼差しから、伝わってくる。
「もう良いんです、佐久良売さま。」
真比登は佐久良売を貫きながら、
「あなたが、いてくれるから。」
玉の汗をかき、
「オレの
佐久良売は押し寄せるくわいらくに、
「……う、あっ。」
ともだえながら、頭を激しくふり、
「違う、真比登ぉ……。あたくし、嫌じゃない。違うの。あたくしは、あなたの辛さを、一緒に、分かち合いたいの。あなたを、愛しているから。」
思いの丈を叫ぶ。
すると、いっそう、鋭く奥まで押し刺された。
「ひぃっ!」
たまらない。
良い。
くわいらくが多重の花となり、大きく花開く。
───
佐久良売は真比登の腕のなかで弓なりにのけぞった。
「佐久良売さま! 愛しています!」
真比登の腕のなかは、安心する。佐久良売の身体を支えて、びくともしない。
(真比登。
いつまでもこうしていて。
あたくしを癒やして。
あなたを癒やしたい。
あなたの深い傷を。その悲しみを。
あたくしがどれくらい、その傷を埋めてあげられるかは、わからない。
でも、癒やしてあげたい。
あたくしは、真実、あなたの
「あ……、真比登……。」
佐久良売は
* * *
(……!)
部屋のなかからは、佐久良売さまの、睦みあう声が聞こえてきた。
きっと、佐久良売さまは、これで慰められて、このあとは、いつもの笑顔に戻ってくださるだろう。
そうできるのは真比登さまだけだ。
真比登さまに感謝。
まあ、もとはといえば、真比登さまの
いやいや、完璧な人なんていない。
真比登さまは、悪くない。
完璧な人、と言えば、
かっこいい。
背が高い。
くっきりと出た喉仏。
広い肩幅。
優しいし、笑顔が素敵だし、頭が良いし、話をしていて楽しいし。
聞くところによると、武芸もかなりの腕前だと言う。
毎夜、焚き火のそばで、
長い時間ではないが、お互いのその日のことを語りあい、必ず別れ際、
───
と、自分に笑顔をむけてくれた源は、素早く、ちゅ、と
「はあ……。」
源は、それ以上は、
自分が仕える主が、悦びの時間を過ごしているのを、女官として部屋の外から守りながら、
(あたしもいつか、源と……。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます