第五十九話 ◆◆主要人物の現在まとめ◆◆

【あらすじ】


 嶋成しまなりは医務室で、若い女官が佐久良売さくらめつまをあてこするのを目撃。

 佐久良売さくらめは激怒。

 その剣幕にびびった三日月顎の女官が木立で泣いていたので、嶋成は優しく声をかけたが、声をかけた事を後悔する。




【主要人物の現在】


 ・真比登まひと……軍監ぐんげん。佐久良売を妻にして、幸せ絶頂。

 テレテレ顔が止まらない29歳。


 ・佐久良売さくらめ……初めて真比登の疱瘡もがさを面と向かってあてこすられて、ショックをうけた24歳。


 ・嶋成しまなり……鎮兵ちんぺい。読者さまから、「幸せになれよ。」「今に良いことあるよ」と励まされ続け幾星霜いくせいそう。今に至るまで幸せをつかみそこねている22歳。

 もはや主人公。



 ・車持君くるまもちのきみの大鍔売おおつばめ……いばった女。16歳。

 ふっくら体型、顎が三日月。

 上野国かみつけのくににある大川の屋敷から、桃生柵もむのふのきに来たばかり。

 ちなみに名前は、燕──ではなく、刀のつばのイメージ。顎とがってるからね。


 ・みなもと……鎮兵。思った事をズバズバ言う、ハイスペック19歳。若大根売わかおおねめと結婚を前提とした交際中。ラブラブ。


 ・若大根売わかおおねめ……佐久良売が、真比登をあてこすられて荒ぶったのを全力で止めて、その後、傍によりそって、落ち着くのを手伝った。実はしっかり者の女官。18歳。


 ・久自良くじら……鎮兵。ぽっこりお腹。嶋成、源と楽しくつるんでいる既婚者、23歳。


 ・五百足いおたり……擬大毅ぎたいき(真比登の副官)。チョビ髭。

 万々妹ままいも(義理の妹)だった小鳥売を妻にした22歳。ラブラブ。


 ・小鳥売ことりめ……炊屋かしきやで女官にまじって働く、郷の女。ふっくら可愛い17歳。

 五百足の妻となり幸せです!


 ・都々自売つつじめ……佐久良売の同母妹いろも、19歳。

 お付きの女官、塩売しおめと一緒に、つまの実家、下野国しもつけのくにに避難中。


 ・上毛野君かみつけののきみの大川おおかわ……美貌の副将軍。時々、兵舎の部屋に帰ると、見知らぬ女が部屋にいて、時には半裸で迫ってくるというホラーに悩まされていたが、一人見せしめにしたら、その怪奇現象はなくなったのでホッとしている、女嫌い25歳。


 ・三虎……大川の従者。大川の世話が命。仏頂面25歳。


 ・古志加こじか……嶋成からプロポーズされたが、断った。その後も良い兵士仲間として、嶋成と接してる。

 片思いの相手、三虎との進展は悲しいほど皆無の19歳。


 ・花麻呂はなまろ……上毛野かみつけの衛士えじ卯団うのだんの衛士だが、今は鎮兵ちんぺい伯団はくのだん預かり。

 現在の上司命令は、古志加のおりの21歳。


 




 



   *   *   *



 おまけ。


 



「ふふ……、三虎も一緒に湯船に入れば良いものを……。」


 大川は、白い肌を桃色に染めながら、ゆったりと湯船につかる。

 湯船は、大人のおのこ二人が悠々とつかれる大きさだ。


 夜の湯屋には、もうもうと、湯気がたちこめる。


 湯屋用の白い衣をきっちり着た三虎が、湯船のそばにむきだしの膝をつき、湯桶ゆおけで大川の肩にお湯をかける。


 大川は髪が濡れないように、髪をすべてもとどりに緩くまとめあげている。夜に洗髪をしては、髪が乾ききらない為だ。


「オレはけっこうです。」


 大川のはだかの胸に透明なお湯が流れ落ち、肩に宇万良うまら(野いばら)の花びらがのる。

 湯船には、ちらほらと宇万良うまらの乾燥花が浮かび、あたりは甘い花の匂いで満ちている。


 大川は、ほ、と熱のあるため息をつき、しっとりと水気のある微笑みで、


「後からお湯を沸かさせて、別々に入るのも、悪いだろう? 

 この宇万良うまらは、上野国かみつけのくにから浄足きよたり(三虎のおい)が送ってきてくれたものではないか。

 私が使っただけでお湯を捨てるのは、実にもったいない。

 さあ、三虎も脱ぐが良い。」


 と、戯れに三虎に流し目を送る。

 三虎は冷たく、


「脱ぎません。

 大川さまのお世話が全部終わってから、オレは湯屋を使います。

 お湯を沸かす女官には、たっぷりつかませてますので、問題ありません。

 宇万良うまらは自分の分は別にとっておいてあります。

 さ、垢すりをします。」


 と主に立つように促す。大川は素直に、


「うん。」


 と湯船を立つ。

 ざぱ、とお湯が音をたて、ゆらゆら赤い花びらが水面に揺れ、美貌の男が、舞と武芸で鍛えた美しい身体を、惜しげもなくさらした。

 三虎が手際よく、垢すり(木べら)を背中にあててゆく。


上野国かみつけのくにが懐かしいな……。」

「ええ。伊香保風いかほかぜ(のちの上州名物、冬のからかぜのこと)がない冬なんて物足りません。あの目を開けてられない強風に吹かれたくて仕方ないですよ。」

「はは。まったくだ。」


 ふと、三虎が垢すりを下に置き、湯桶にお湯をくんだ。

 ひたひた、裸足で湯屋と厨屋くりやを隔てる木戸のところに歩き、カラッ、と木戸を一気に開くと、


「げっ……。」


 大川のはだかを覗いていた女官が二人、正体をあばかれて、気まずそうにうめいた。


「去れ!」


 三虎は一喝し、二人の頭から湯桶のお湯を、ビシャア! とひっかけた。


「きゃあ!」

「わぷっ!」


 おみなどもは悲鳴をあげ、ばたばたと逃げ去った。


 ここが上毛野君かみつけののきみの屋敷なら、間違いなく棒打ちの刑。

 しかしここは桃生柵もむのふのき

 女官どもが湯加減の伺いに来たと主張すると、三虎も強くでれないところがある。

 なので最近は、入浴を覗く不届きな女官を見つけ次第、問答無用でこうする事にしていた。


(まったく、このような事があるから、オレはお世話に徹せねばならんのだ!)


 三虎が垢すりを途中にしてしまった大川が、三虎が垢を拭い去る前だったので、湯船に入りなおすわけにもいかず、立ったまま寒そうに、


「う、クシュン!」


 くしゃみをした。



 



     ───完───













 ↓(袋とじ的な)挿絵です。

https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093078309879197

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