第二十七話 いさよひ、其の五
紅の化粧を施され、いつもの質素な衣ではなく、綺麗な
大人びた
(これが小鳥売なのか。)
あまりにも、普段の姿とかけ離れている。
どこかの美しい
「ど、どう……、どうしたんだ、その格好は。」
小鳥売は恥ずかしそうに頬を赤くした。
「
真比登が、
「ぷっ、全然気が付かねえの! わははは!」
とおかしそうに吹き出し、佐久良売さまがさっと倚子を立ち、
「ほほほ……。ちょっとあたくし達は出てますからね。ほほほ……。」
と優雅に笑いながら、真比登の手をとり、お付きの女官をともない、部屋を出ていった。
部屋には、
「や、やっぱり、
小鳥売は泣きそうだ。
「小鳥売! 違う。あんまり……。」
(えっ、この先言うの───? 恥ずかしいんだけどぉぉ……。)
五百足はためらいつつ、小鳥売を泣かさないように、言葉をつむぐ。
「あんまり……、美しかったから、気がつくのが遅れただけだ。似合ってる。」
「本当!?」
小鳥売は顔をあげた。
「ああ、本当だ。」
「顔を良く見せておくれ。」
小鳥売の可愛らしい丸い目が潤んでいる。
恥ずかしそうな口元。
太めの眉。
まるい頬。
額には
「オレの
「はい、大人になりました!
だから、
小鳥売が真っ赤な顔で目をつぶり、両手を握りこぶしにして叫んだ。
(!!)
五百足は驚き、口をぱかっと開けた。
胸が、どっくん、と大きく脈打った。
嬉しいが、驚きすぎて、なんと言ったら良いものか、しばし言葉を失う。
* * *
(勇気を出して、妻にしてって言ったのに……。
やっぱり、あたしじゃ駄目なの?
五百足はポカンとした顔で、黙ったままだ。
小鳥売は顔をおおった。
(この沈黙に耐えられない!)
大きな声で、
「へ、へ、返事してっ!」
と叫んだ。
「オレも恋うてる。
大きな声で、五百足の返事がきた。
(!)
小鳥売はさっと顔をおおった手をどけ、目を見開いて五百足を見た。
顔が赤く、眉をたて、真剣な顔をした、大好きな
(嬉しい。夢にまで見た言葉、今、やっと聞けたのね……。)
「い……。」
そう言おうとして、五百足の背後、妻戸がバタンと開いた音にかき消された。
「やったー! ふおぉぉぉぉおおおっあひゃ───!」
と特大の奇声を発しながら、
それを小鳥売はがしっと受け止め、
「きゃー、
身体の内側から喜びがはじけ、きゃーっ、と嬉しく叫んだ。
* * *
小鳥売は嬉しそうに女官を抱きしめながら、
「うっ……。」
と泣き笑いした。あとから、上機嫌の佐久良売さまが、
「うふふっ。良いものを見させてもらったわ。」
と優雅な足取りで入ってくる。
(見てたんですね……。)
と五百足は生暖かい笑顔を佐久良売さまに向ける。これ以上の抗議はできない。
佐久良売さまはその視線に気が付き、たちまち澄まし顔をした。
しかし、
あとから部屋に入ってきた真比登の影に、すっ……、と隠れた。
真比登が苦笑する。
「
「はい……。」
五百足も苦笑をかえす。
向こうでは小鳥売が、
「あだし、うれじい、うう、うえん、うええん……。」
と本格的に泣き始めているが、
「きゃー、泣かないで! でも気持ちわかるわぁ! 泣けるわよね!」
と泣き止ませたいのか、泣かせたいのかわからない言葉を親身にかけている。
(泣かないで、と言いたいのだが。
小鳥売から言わせてごめん。ありがとう。オレもずっと、同じ気持ちだったよ、と言いたいのだが。
今夜、オレの部屋においで、と小鳥売に言いたいのだが。)
小鳥売と女官がずっと喋り続け、五百足が口を挟む隙はない。
おほん。
佐久良売さまが咳払いをした。
しかし、女官のお喋りが止まらない。
「
佐久良売さまが鋭く言い、はっ、と女官と小鳥売が口を閉ざした。
「たしか、二人とも、婚姻の許可を得なければいけない親はいないのよね? 婚姻は決まりね。おめでとう。小鳥売、お祝いに、今着てる衣はあげましょう。」
* * *
真比登は、
(さすがです佐久良売さま、お優しい。オレの天女……。)
と満足して頷いた。
すかさず小鳥売が、
「本当ですかっ? 帯も?!」
と確認する。
(さすがだな小鳥売。うちの働き
「ええ。あげるわ。婚姻の宴で着ると良いわ。」
「ありがとうございます!」
小鳥売がはちきれそうな笑顔で言った。
「ありがとうございます、佐久良売さま。」
と礼の姿勢をとった。
小鳥売があわてて、礼の姿勢を一緒にとる。
真比登はそんな二人を微笑ましく見る。
(やっとだな……。)
ずっと、二人を見守ってきた。
まだ幼い頃、
(過ちが起こる前に、寝る場所を別にしてやったほうが良いんじゃないか?)
と悩んだが、家族だから、と持ち出されると、真比登は弱かった……。
耳は良いので、まだ幼い小鳥売の悲鳴が聞こえたら、すぐに飛んでいってきついお仕置きをするつもりだったが、そういった事にはならなかったようだ。
(早く婚姻しちゃえば良いじゃん。)
小鳥売が十六歳になってからは、そうじれったく思って見ていたのだが、ようやく二人の想いが通じて、良かった。
……小鳥売が十三歳のとき、小鳥売を試した事がある。
……あれは、
どうしても、試さずにはいられなかった。
小鳥売が、試しを乗り越えられなかったら、鎮兵となった
結果、小鳥売は、立派に試しを乗り越えた。
それを嬉しく思うと同時に。
少しだけ、あの時はさみしかった。
きっと、小鳥売は、真比登の
でも、小鳥売は、
幼い二人の恋路を、真比登は応援する以外、考えつかなかった。
真比登は、寂しい男だった。
佐久良売さまと出会うまでは……。
今、目の前で、立派な大人になった
小鳥売は真っ赤になった。
きゃー、と
(うん、良かった、良かった。)
真比登は
(ちょっと見世物にしちゃって、ごめんね
やっぱり、佐久良売さまが楽しそうになさってると、オレも嬉しいんだよ……。)
───わかってますよ。
といった苦笑を浮かべた。
* * *
著者より。
「
https://kakuyomu.jp/works/16818093078535136488
全5話。
真比登と小鳥売と
かごのぼっち様より、ファンアートを頂戴しました。
かごのぼっち様、ありがとうございました。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093084083597598
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