第二十六話 いさよひ、其の四
うら
万葉集 作者不詳
* * *
「
と明るい声をだした。
ぼんやりしていた五百足は、はっとする。
(おっと……。つい、昔の事を思い出してしまったな。)
恋人への想いがまっすぐな
源は、高すぎず、安すぎず、ほどほどの
「もっと高いのでも良いぞ?」
「背伸びしすぎは、見栄のはりすぎ。良くない。」
からっと源は笑い、
「オレの普段の、ぼろっちい衣じゃなければ、充分だ。これが良い。」
と言った。
「そうか、好きにしろ。」
と了承する。帯一式、貸してやり、着替えた源は、背が高く美男であるので、ほどほどの衣でも、颯爽と立派に、良い男ぶりで着こなした。
二人で
真比登は、数日前に婚姻したばかりだ。幸せそうで、デレデレ笑っている事が多くなった。
五百足は、やっと真比登に妻が見つかって、心から嬉しいのだが、今のこの含み笑いは、いつものデレデレとは、違うようだ。
「なんです?」
「ふふふ。」
「気味が悪いですね。」
「なんとでも言え。五百足、ちょっと
「はぁ? なんでです?」
佐久良売さま。
ずば抜けて美しい
デレデレ笑う真比登の隣で、佐久良売さまはいつも品の良い微笑みを浮かべている。
しかし、ここにいる鎮兵たちは皆知っている。
……佐久良売さまが怒ると凄まじく怖いことを!!
だいたい、
佐久良売さまになるべくお近づきになりたくない。
それが五百足の素直な思いである。
「オレが時々、おまえの話をするのを聞いて、顔を見たくなったんだとよ。」
そう言われては、断れない。
「うへぇ……、どんな話をしたんですよ、怖いなあ。」
五百足は肩を落として、にやにや笑いの真比登と、佐久良売さまの部屋にむかった。
佐久良売さまは、きめ細かく白い
「いらっしゃい。いつもあたくしの
と上品な微笑みで
「座って。」
真比登と五百足は、佐久良売さまと向かい合い、倚子に座る。
佐久良売さまの後ろには、いつものお付きの女官が、静かに控えている。
「あなた、いくつだったかしら?」
「二十一歳です。」
「そう……。」
と当たり障りのない話をしていると、後方で
にこーっ、とひときわ大きく、佐久良売さまが笑う。
「
新しく入室した女官が、手に持った盆から、
「恐れ入ります。」
真比登が静かだ。
(ご馳走ですね、佐久良売さま! とデレデレ言いそうなものなのに。)
隣に座った真比登をちらっと見ると、にこーっ、と大きく笑いながら、新しく入室した女官を見ている。
その女官は、ふっくらした体型をしていた。
(ん?)
その体型には見覚えが……。
いや、そもそも、女官は、忘れな草色と
女官ではない。
その顔は……。
「ひゃっ?! 小鳥売───?!」
五百足は叫んで倚子から転げ落ちそうになった。
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093076214349430
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