第二十七話 姉妹の語らい、其の二。
あなたの事が忘れられない……。
万葉集 作者不詳
* * *
「まあ、
さらりと人妻である
「い、嫌よ……。婚姻なんて、あたくしはしないのよ。
「お姉さまのそのお言葉は、前にも聞きましたわ。」
そう、縁談を断るたび、
───婚姻なんてイヤ。
と、一方的な
姉として
「あたくしは、お姉さまの考えを尊重いたしますわ。
でも、考えてみてほしいの。
あの軍監殿は、お姉さまの出した厳しい条件を全て満たしてます。
性格も良さそうだと……。」
にかっ、と
情報の出元はここか。
「この先、このような条件の
「ええ、そうよね……。」
にゃあん、と
わかってる。
自分が婚姻するとしたら、これが最後の機会かもしれない。
それを父上から切望されている事も……。
ごろごろごろ……。
白と
春日部真比登さま。
福耳。明るい笑顔。純粋な瞳。博識で、二十八歳だというけれど、まるで
軍監なのだから、豪族の娘である自分の嫁ぎ先として、何の問題もない。
良い人だと思う。
きっと、
ただ。
あの無邪気であけっぴろげな人の隣に、自分が立っている姿を、想像ができない。
「お姉さま。じゃあ、ちょっと質問を変えて、
「そんなのない……。」
「例え話でけっこうですわ。」
「…………。」
そう、例えるなら……。
春日部真比登さまのような、純粋で若者みたいな目より、
静かにそこに立っているだけで、頼りがいのある強さを醸し出し、落ち着きを感じさせる
時々、驚くほど悲しそうな目をするのに、
ただの上っ面の優しさじゃなくて、深く、広く、こちらを包みこんでくれるような、大きな優しさを持った、大人の
「例えば……。馬上で
「怖くない、と言ってくれたり……。」
その人にとってだけは、
「花束をくれたり……。」
佐久良売を喜ばせようとしてくれて。
「
(あれ?)
いきなり
(これではまるで、誰かの事を言ってるみたいじゃない!
あ、あり得ない。ただの一兵士を、豪族の娘であるあたくしが気にしてるとでもいうの?
いえ、そもそも、
頬が熱い。
(なんで……。)
なんで、こんなに、あの
そう。
昨日、軍監殿から木簡を届けられた時も。
今朝も。
今も。
あの、悲しげで、優しい顔が、
(こ、困った……! あり得ない。)
「あたくし、帰る。たたら
「まあ!」
残された
「これはもしかすると、もしかするのかしら……?」
佐久良売は、逃げるように医務室へ行き、仕事に没頭し、いつもよりきつく負傷兵の傷口を洗い、
「い、痛いです!」
「あら、そう、ごめんなさい。」
とぼんやり答え、いつもよりきつく、傷口に清潔な麻布を巻き、
「き、きついですっ!」
「あら、そう、ごめんなさい。」
とぼんやり答え、昼餉もぼんやりとすぎ、陽が傾きはじめる頃、ようやく、落ち着いた。
(やはり、あたくしは、軍監殿と婚姻はできない。これが、最後の機会で、どんなに好条件だったとしても……。
と心で唱える。
誰とも婚姻しない。
自分はそういう
一人の
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