第二十六話 姉妹の語らい、其の一。
蜂の巣を手に入れた日の夜。
春日部真比登さまからの
(婚姻したい、と、かき
そう、少々緊張しながら木簡を広げると、綺麗な文字で、当たり障りのない事が書いてあった。
(返事をしなければならないわね。どうしよう……。)
翌朝。
これは
その後、
医務室の手伝いに区切りをつけ、午前中に
「
「にゃあん。」
白い毛に、
「
「んふふふー。なんて可愛いの。」
そう、にこにこ笑いながら、
「にゃあん……。」
と細く鳴きながら、大人しく
猫は膝で丸くなる。
倚子に座っていた
「塩売。片付けて。」
「はい。」
「
「まだ奈良から帰ってこれないの?
「ええ、そうなの。
「二人で行くの?」
「ええ、あたしを無事、
「そう……。寺麻呂さまは立派ね。文官なのだから、直接戰場に立つわけじゃないわ。
「ええ……、わかってるわ。
「でも、父上やお姉さまと離れるのは、辛いわ。」
甘い良い匂いがする。
対して、
「大丈夫。すぐに……、とは言えないかもしれないけど、日本兵が必ず、最後には勝つわ。」
教えてくれた人がいるから。
「父上も、あたくしも、寺麻呂さまも、皆、また生きて会える。だから安心して、避難なさい。」
そう、
「はい。お姉さま。」
「準備は念入りに……。
「はい、
「さすがね。」
「
いつも落ち着いた女官は、ふと、恥ずかしそうにした。
「はい……。あの、男手がないのもいかがなものかと、あたしの
「良い事じゃない!」
主である
「遠慮する事はないわ。あなたも
「まあっ!」
塩売が驚き、
「そしたら、あたくしが塩売の
とくすくす笑った。
「ま、ま、まあっ……!」
塩売が顔を赤くして、両手で頬をおおって困った。姉妹は微笑ましくその様子を見るが、
「ぷっ、きゃらきゃらきゃらきゃら……!」
と摩訶不思議な笑い方をした。
全員、
「あ、んん……! 失礼しました。」
「くくく……。」
「ふふふ……。」
姉妹は笑い、塩売が、
「まったく、
しんみりと言い、
しばらく、優しい笑顔でその光景を見ていた
* * *
(状況を整理すると、今回の縁談のお相手、
一方、その
記憶にあるのは、十五歳の姿。
再会したのは、二十三歳の姿。
すっかり大人になって、二十歳までとされる婚期も過ぎて、厳しい雰囲気を漂わせる
いつも、眉間にシワが寄っている。いったん、怒りに火がつくと、怒り方は本当に怖い。それは、十五歳の時にはなかったものだ……。
でも、
ただ、
「お姉さま、奈良では良い
「…………。」
お姉さま自身の恋愛の話をふると、軽い話でさえ、まったくしてくれず、美しい顔に、
(お姉さまを、怖い、と影でコソコソ噂する下人や女官たちは、お姉さまの優しさや、抱えてらっしゃる憂いを知らないのだわ。)
(八年間の
お姉さまが話してくださらない限り、わからないわ。
それがこの縁談で、お心に、何かの変化があったのだわ。
どっちの
直接会って二人の顔を確かめられないのは、もどかしいわね。)
姉の縁談に同席するわけにもいかない。
「
佐久良売姉さまは、ちょっと眉根をよせ、目をそらしながら、
「あ、そう、そうなのよ。実はちょっと困ってて、軍監殿から木簡をもらってしまったの。」
と言って、
(もしかしたら今日は、お心を話してくださるかもしれない。上手く話を誘導できれば……。)
そう思いつつ、
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