第二十五話 御勝という男、其の四。
少し離れた場所で、名前の知らぬ兵士が、
「……この野郎、見たか、
と一人
「バカ野郎! やめろ!」
兵士は鋭く振り向いた。目には狂気じみた光がある。
「へへ……、だってさ、いいだろう。こっちは、これだけ怖い目にあったんだ。憎いこいつらを……。」
「やめろって言ったんだ。オレの命令をきけ。」
ぶわ、と
それに当てられた兵士は、
「ひぇっ。」
と息を呑んだ。
「すぐに負傷兵に肩を貸して、帰れ。わかったか!」
「
と兵はそそくさと背をむけた。
いつもの、優しい光を宿す目に戻り、静かに、去っていく
(踏み外すんじゃねぇぞ。)
心のなかで、そう兵士に声をかける。今、口に出しても、心に届く状態ではないのだ……。
当然、いろんな
なかに、こんな
もう兵役を終え、銭に困っているわけでもないのに、鎮兵の
その
「オレは戰で、人を斬った。殴って、蹴って、何人も殺した。兵役が嫌で嫌で、早く家に帰りたくて、仕方なかった。
でもよ、やっと兵役が明けて、家に帰って、平和に暮らしてみたらさ。
昔通りの暮らしが、なんでか、イライラするんだよ。
オレが死にそうな思いをしてるあいだ、妻や
当たり前のことさ。
だが、オレは許せねえと思っちまった。どうして、オレだけこんな辛い思いをしなきゃなんなかったんだ、と。
妻は悪いことなんかしてねぇのに、オレはイライラして、しょっちゅう殴っちまうんだよ。蹴っちまうんだよ。
だから、殺しちまう前に、ここに逃げてきたんだ。
もう、オレは普通に暮らせないのさ。
わかるか、
と言われたが、
「分かんねぇ。」
と
「家族がいるなら、側にいて、大事にしてやるべきだ。殴るなんて最低だ。」
その
笑いながら、蝦夷の顔面を殴っているのを、
そのうちに、小競り合いのなかで、蝦夷に刺されて、
きっと、普通と、狂気の間には、越えてはいけない一線があるのだ。
人として踏み外してはいけない線が。
いくら戰場とはいえ、暴力に呑まれ非道な行いに手を染めたら、兵役が終わって、家族のもとに帰っても、安穏として暮らせなくなるのだ。
鎮兵に兵役はない。
軍団には、兵役がある。
戰場は、興奮と狂気の
道理を説いて、踏みとどまらせるより、己の威圧で、非道を
だから
「
側に戻ってきた
しばらく行くと、そこには、何人かの日本兵の亡骸のなかに、七本の矢に全身を貫かれ、大地に仰向けになり絶命した
口には、狂気じみた笑みが張り付いたままだった。
最後に、何を見たか。
(バカ野郎め……。命令をきけって言ったろうがよ……。)
「あな安らけ。
それ以上、死者にかける言葉は、
彼の名前を忘れず、死を嘆き、涙するのは、彼の家族であり、いるのなら、妻や子供の役目だからだ。
死者へ口にするのは、見送りの言葉だけだ。
* * *
───あの
ああ、
待っていてくださいね。
もうすぐ、あともう少しで……。
* * *
※孫子 謀攻編 五
※著者より。
いつもご覧くださり、ありがとうございます。
当時のよろいについて説明を入れておきます。
以下、面倒くさい読者さまは、最後の一文【結論】だけ読めば良し!(๑•̀ㅂ•́)و✧
普通に説明すると面白くないので、少し表現を遊びます。本のタイトル、著者、出版社は嘘ですが、
では、どうぞ!
以下は奈良時代について書かれた名著、「奈良時代、その時代」
【
この時代、兵役にあたる者は、1年分の食糧、
これを
しかし、
実際は、食糧代、武器代などをまとめた金額を、米や特産物を対価とし、あらかじめ国におさめていたのであろう。
兵役についた男は、国から
無論、一家庭にとって、その負担を捻出するのは、簡単ではなかった。
当時、「兵役に一人だすと、その家はかたむく。」と言われたのは、しがない庶民が、政治の欠陥に対しアイロニイを最大限きかせて
一家庭の用意が間に合わない分は、
ここで注目すべきは、その
自弁で国から指定されている
立派な鉄製、革製の
もちろん、野良着のまま戦にでるのは、あまりに不憫というもの。
各家庭は、
【結論】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます