第二十四話 御勝という男、其の三。
右足首をつかまれた
その鼻先を、ひゅ、と吹き矢がかすめた。
「あっぶね!」
それは、十五歳ほどの蝦夷だった。
仰向け。腹がさけ、もう、絶命間近だ。
ふう、ふう、と細く息をし、目も
(
日本兵は、二十一歳からの兵役だ。
これだけの若者を戰場に送らざるをえない、蝦夷の実情を、つい、
「ちっ……、オレが斬ったんじゃねぇぞー。」
それは間違いない。少なくとも
そう、もそもそ何かに言い訳しながら、
「おーい、離してくれ。」
と左手で、自分の右足首に絡みついた、
「ピッカ イムンペ……。」
「ニサッタ アン ヤクン ホシッパアン クス ネ ナ……。」
ゆらゆらと、瞳が揺れる。
誰かを探している。
いや、黄泉に近く、
「な、何言ってんのかわかんねえよ。」
「ケヤム イムンペ サム タ クホシピ クス ネ ナ……。」
降ろしていた左手を、ふるふると上に持ち上げる。
その手には、赤い縞模様の石があしらわれた白い貝殻の首飾りが握られていた。
きっと女物だ。
首飾りを、震える手で
「おい、そういうのは、仲間にやれよ……。」
「ピッカ イムンペ……。ピッカ イムンペ……。 ピッカ イムンペ……。」
つう、
首飾りが地につく前に、思わず
首飾りごと、その手を握りしめていた。
血に濡れ。
まだ温かい。
言葉も通じない。衣も、生活も、何もかも違う。
でも、この体温と、手の感触は、同じ人間だ。何も変わるものじゃない。
(ちっ……。)
因果な仕事だ。
自分の
「わかった。お前の手で、吹き矢から救ってもらったようなもんだからな。いったん、これはオレが預かって、何かの機会に、お前らの仲間に渡すよ。」
(あてがあるわけではないが……。)
「あな安らけ。
きっと、蝦夷の彼には、通じない見送りの言葉だ。
だが、
馬上の人となった
* * *
制圧が終わった。
残されたのは、亡骸か、もう戦えず動けない
もともと、待ち伏せをしていた蝦夷の数は少ない。戰場はここだけではない。
こちらが五百人なのにたいし、敵は五十人ほどか。
蝦夷は物陰にひそんで、戦うしかないとも言える。
状況を確認に行かせていた
「状況は?」
「ざっと七十人が死。百三十人が負傷。」
「負傷兵がやけに多いな。
「
吹き矢には痺れ毒が塗ってある。その場ではすぐに死なないが、吹き矢一本刺さるだけで、身体が動かなくなり、負傷者のうちに入ってしまう。
「どうしますか?」
と訊く。
ぐったり疲れた顔で地べたに座り込む兵士が多い。不意打ちに乱され、士気が下がっている。兵の数も随分削られた。このまま、敵の郷へ向かう事自体は可能だが……。
分厚い雲がいよいよ重く、出陣した時の予想より、早く雨となりそうだった。
すると、もともと湿地の多い場所であるから、足場は驚くほどねちゃつき、悪くなるであろう……。
(これでは奮戦できないな。)
「この作戦は失敗だ。帰るぞ。」
と判断をくだす。
「
「なあに。───※
(戦うべき時と、そうでない時をわきまえる者は勝つ。準備を
「軍議ではまたその一点ばりですか。」
「うん。」
このような負け戦のあと、責任追及の軍議では、
もともと、口達者で
ちなみに、
「帰るぞ!」
とまわりに指示を飛ばし。
プフォ───。
退却の
「ちっ!」
と舌打ちし、
少し離れた場所で、一人の
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