第二十三話 御勝という男、其の二。
今日の
そこが、
トイオマイを正面から叩こうとすると、その前には湿地が広がり、日本兵は足をとられ、騎馬も思うようにすすめず、そうこうしているうちに、蝦夷の弓矢にやられてしまう。
日本兵はトイオマイを思うように攻めあぐねていた。
今、
「
今日は勝負をしましょうよ。どちらがより多く、
それとも、先に敵の郷に到達した方の勝ちにしましょうか。」
御勝はニヤリと笑う。
「チッ、てめえ、戻れ!」
と馬上から怒った。
開戦後、入り乱れて戦う場でもあるまいに、
「
無視をして、
「なんでだ?
感じないか?
血が
オレがどんなに強いかを!
「
「ふん……。見込み違いか。」
そう言いおいて、冷笑を残し、御勝は来た方へ戻っていった。
「あの野郎。あとで
「
(……オレの言葉が届いていれば良いんだがな。)
曇天。
八月の陽気はむしむしと熱く、いたるところで
そろそろと、五百人の兵で林を進む。
先頭を行く騎馬は、五十にも満たない。馬は貴重であり、馬を扱える兵士もまた、貴重である。
林には、今のところ、敵の気配はない。だが、
後ろの
だが、合同の
「このまま行けるかなぁ?」
「下草が邪魔だぜ。」
「はっ、転ぶなよ。転んで味方の
「ははっ、違いない。」
と談笑している。
(呑気だな。)
と思うが、叱り飛ばして無言にさせても、集中力を持ってまわりを警戒してくれるわけではあるまい……。
チュチチチ、チチチ……。
雀が飛ぶ。
ふと、鳥の声がやんだ。
止まれ、の合図である。
(…………。)
ちり。
「抜刀!」
「わああああ!」
軍の後ろからも、動揺の声があがる。
おそらく、後ろからも同時に、矢を射掛けられている。
「騎馬は西へ!
左翼は西へ!
右翼は東を警戒!
固まって動けよ!」
「
「
「騎馬、オレに続け!」
と西に突進した。
西の藪から姿をあらわした蝦夷に、
馬上から白刃がきらめき、
敵味方ばらけ、混戦となった頃、背中がわ、東から、
「ぎゃあああ!」
と悲鳴があがる。
東の藪にも、敵が潜んで、時間差で攻撃してきたのだ。
これは効く。
日本兵は、おおいに乱れた。
「落ち着け! 乱れるな! 一人で出るな、固まって迎えうて!」
「くはッ、だらしねえ!」
若い男の声がした。
「くははは! オレを見ろよ! くははは! オレは強い。オレは強い!」
ためらいのない剣。
胴体と首を切り離す、と決めてふるっている
馬に乗った
そして、皆に良く聞こえるよう、大声をだした。
「東へ向かうぞ! 蝦夷の郷へ、誰よりも早く到達するぞ!
御勝が
……その声は大きく、喧騒のなかでも良く響いた。
混乱のなかで、徒歩の兵士が、わらわらとついていこうとする。
「勝手は許さん! 行くな!」
何人かの兵士は
「……ハッ、意気地なしめ。」
「東はこっちだ!」
一直線に東へ向かう。
「バカ野郎!」
「うっ!」
しゅる、しゅる、しゅる、と三本の荒縄に捕まった。
六人の蝦夷に囲まれ、両手の
一瞬の出来事。
ぎりぎりと首を二人がかりで引かれ、みちっ、みちっ、と
押し負けぬ。が、身体が動かせない。
(やるじゃねえか。オレ用の対策だな。)
と
イイイイン! と
(マズイ!)
ひねりすぎた、と思った時にはもう、視界がかしぎ、落馬していた。視界が回る。
(うお……!)
柔らかく。
勢いの流れに、逆らわず。
手をつけ!
ひら。
ガシャガシャ、と鉄の
そのまま止まる
一回転しすかさず立ち上がり、抜刀し、
「おらぁ!」
気合一閃。
蝦夷三人の首を一
血が長く尾をひいた。
背後から、ぶん、と蝦夷の
「おーらぁ!」
血が煙となり、生臭さが満ち、ここはこの世のものとも思えない。
「ふっ。」
汗を垂らした
「!」
気配は感じなかった。
不覚。気が緩んだ一瞬だった。
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