第三十三話 米菓子美味しいです。
(今は急いでいて、洗濯をしてくれる働き
今日だけだから……。明日はもう、つけないから……。)
と、飾り布を右腕にしっかり巻き直し、衣をあらためた。
髪に櫛を通して
白い
水鏡に映った己の顔は、緊張していた。
(
* * *
お姉さまへ。
人を気軽に
許してください。
でも、あたし達の敬愛する
許せません。
今、あたしは、塩売の部屋でこれを書いています。
なぜか、お話ししますね。
今朝、佐久良売さまは、泣きはらした酷いお顔でした。
当然、
佐久良売さまは、
昨日は、この医療の仕事がことさら辛く感じましたの。
とごまかされました。
そんなに辛いなら、無理に医務室に行かずとも良い。
と優しく
佐久良売さまは、
その為に戻ってきましたの。気になさらないで。
と仰いました。あたしは
あたしは塩売に連れられて、この部屋に来ました。
全て、塩売に話しました。
塩売は、米菓子をだしてくれて、
と言ってくれました。
あたしは米菓子を頂戴しながら、心を落ち着ける為に、今、こんな時間に日記を書いています。
お姉さま。
力を貸してください。
お可哀想な
あたしの力は足りないのでしょうか。
どうしたら良いでしょうか。
米菓子を食べ終わったら、あたしも、医務室へ行きます。
あまり佐久良売さまを、一人にしたくはありません。
塩売がたくさん米菓子をだしてくれたので、もうちょっと時間がかかりそうです。
やはり人の親切は素直にうけないといけません。
米菓子、美味しいです。
炊いて丸めて棒状にした米を乾燥させて、胡麻油で揚げ焼きにして、仕上げに胡麻と塩が振ってあります。
あたしは一本も残すつもりはありません。
* * *
やがて、塩売が一つの部屋の前で立ち止まった。
開け放たれている
「
となかにはいる。
部屋から、「にゃあん。」と声が聞こえた。
白い毛に、
「
「猫は珍しいでしょう?
部屋の中央の倚子にゆったりと座る、この部屋の主から返事があった。
猫は、
「ようこそ。あたくしが
十八、九歳ほどの妙齢の
可愛らしい声、愛らしい丸い目、白く透き通るような美しい肌は、さすが
「お召しに従い参上
「そこから先に進まないように。」
と、冷たく言った。
「ご活躍の噂はかねがね聞き及んでいます。
今日は、あたくしのお姉さまの事で話がしたくて。」
「お時間をいただきました。」
真比登は汗をかきながら、その場に平伏した。ガシャガシャ、と
「今回のこと、いかようにも罰を受けます。」
「昨日、皆の前で、お姉さまに
怒っている!
真比登は肝が冷えた。
「そうです。しかし侮辱しようとしたのではなく、誓ってまことの心です。それだけは、どうか、疑わないでください。」
「お姉さまは、態度が厳しい事がありますが、あたくしにはいつも優しく、自分のことより、家族の心配ばかりしているような人です。今はこの
もちろん、人を騙そうなど考えた事もない……。
そんな人が、騙され、縁談という一生を決める場で恥をかかされ、どんな思いをしたか……。」
「今朝会いました。泣きはらした酷い顔をしていました。
お姉さまはめったに泣かない人なんですよ。可哀想に……。」
(
泣きはらして……!
傷つけてしまった。オレの浅はかな考えのせいで!
「今すぐ首を落としてください!」
ぼろぼろと涙が頬をつたう。
身をよじりながら、頭を床に打ち付け、
「今すぐ……! オレは……!」
何度も打ちつけ、額から血が飛んだ。それを見て
「血を見せないで!」
と叫んだ。塩売が、
「この
と毒づきながら飛んできて、さっと手布で
その素早さに
「ごめんなさいね……。あたくし、今は穢れを避けているの。悪く思わないでね。」
とすまなそうに言った。
何故か、声音から冷たさが消え、眼差しの鋭さが和らいでいる。
「あなたは後悔しているのね?」
「はい。」
「今回の件、斬首になってもおかしくない罪ですが、斬首を
戦もそのうち終るでしょう。兵役が終ったら、その時は?」
だが、今はそれを、いちいち言う時ではない。
「もし、許されるなら……。
オレは、影ながら、
ここの一
罪を償いたいんです。」
(
自分にできる事は、武勇を役立てる事ぐらいしかない。
佐久良売さまを遠くから守りたい。
ただの門番でも良い。
佐久良売さまが居るなら……。)
床についた手の指先が、ふるふると震える。
「そして、時々、できるなら、遠くからでも、お姿を拝見できれば……。」
(それだけで、良い。)
「あなたから見て、お姉さまはどんな人かしら?」
「お美しい人です。勇気があって、眩しくて、
(オレの天女。)
思いが口から溢れそうになり、目からは涙がこぼれた。
「ふうん……。」
そうつぶやいた
「良いでしょう。もう少しお姉さまの話をします。
これから話す事は、あまり吹聴しないように。良いわね?」
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