第二十一話 金ぴかで若い副将軍殿
まだ七月の話。
前の副将軍が、あっけなく戰場で生命を落としたあと、後任でやってきた副将軍は、なんと金きらりんの
(なんつー派手な
「初めて見ました。金の
思わずそう言うと、まだ二十四歳という若さの
「
と涼しい顔で言った。
すこぶる美形なので、また、その姿が
(まあ、着任した初日だけ、かっこつけで着飾ったのかな。さすがに戰場では、もっと
そう思っていたら。
着任翌日、大川さまは、しっかり金の
(目立って死ぬぞ。バカか。)
陣形が整い、いよいよ出陣、という直前。
「大川さまは、本当に戰場でも、金ぴかの
そう戸惑いがちに声をかけると、副将軍殿の傍に控えた従者から
「口を慎め。」
「はは、良いさ、三虎。」
大川さまは軽快に笑った。
「言ったろう? 父上に持たされた、と。
そこまで涼しい顔で言ってのけたあと、ぎら、と目に好戦的な光を
「
「はい!」
「
「はい!」
この場所で一番位が高いのは、大川さま。
嚆矢を放つ時を決めるのは、大川さまだった。
命をうけた三虎が、きり、と弓に矢をつがえた。
(良いかまえ。相当弓が使えるな。)
栗毛馬の
ほう、と見入る
大川さまの従者、三虎が、大空に嚆矢を放った。
ビュィィィィィ…………。
高く笛を吹き鳴らしながら、嚆矢が大空を行く。
予想通り、矢は遠くまで飛んでいき、すぐに、南、西、東、三方から、
カ───ン。
カ───ン。
カ───ン。
棒にくくりつけられた四角い旗、赤、黒、白、青、黄、五色の軍幡が、天高く掲げられた。
次の号令は、
「弓矢構え!」
声は四方へ広がる。
「射て!」
ブォ───!
いくつもの
弓矢が、敵、四百人ほどへむかい、一斉に放たれる。
敵は、さっと広がり、弓矢の範囲から逃げる。逃げ足が早いのだ。
何人かは矢にあたり倒れる。
その後。
わぁぁぁ……。
雄叫びをあげながら、味方の兵士千人、その先陣が、敵に突っ込んでいく。
(さて……。)
金ぴか副将軍殿と、その従者が、飛び出した。
大川さまは、七尺(約212cm)、大川さまの身長より少し高い
大川さまは、鉾を高速で振り回し、
三虎が、少し距離をとりながら、これまた早業で矢を放ち、大川さまが転倒させた蝦夷に矢を立て、大川さまに群がる
「ハァ───イッ!」
美男の凛とした気合が、七月の空に響く。
金ぴかの
びゅうぅ、びゅうぅ、目にも止まらぬ速さで大川さまのまわりを鉾が
(へえ、立派なもんだな。金ぴかの
と感心した。
とくに
と、大川さまが、ちらっとこちらを見て、ふっと笑った。
凄惨な、血と砂埃と悲鳴が泥のように交じる戰場で。
白い顔に浮かべた微笑みは、清らかでもあり、その流し目は、ぞわりとさせるような色気があった。まるで
(おえ……、勘弁……。
そそくさと
戰場を引き上げ、帰り道。肩で息をする大川さまに、
「すごいな!
と、にっこり笑顔を向けられた。
その目は明るい色を浮かべている。
後ろにぴったり寄り添う従者が、ニコリとも笑わず、
「大川さまがこれほど称賛くださるとは、めったにない事だ。喜べ。光栄に思うが良い。」
と尊大な口調で言った。なんだか、この従者は可愛くない。
「ありがとうございます。」
「貴殿が気に入った。これからよろしくな。」
大川さまは、そう爽やかに言って、去っていった。
* * *
さて、八月。
びっくり仰天の縁談を
「
「はい。
びしっ、と三虎は清廉な礼の姿勢をとった。この
───三虎は、顔の表情がいつも動かねぇから、とっつきにくいヤツだが、話してみれば、中身は、案外いいヤツだ。まあ、名家の若さまって匂いがプンプンするけどなー。嫌いじゃねぇぜ。
とは、いつの間にか三虎と酒を呑んでいた
今回、二人には一言ぐらい恨み言を言ってやりたいと思っていた
「粟、麦、油壺、ありがたく頂戴します。」
礼の姿勢を返す。
(今夜は皆で粟、麦でささやかな宴会をしよう。)
戰のあとの楽しみができた。自然と頬がゆるむ
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330669049536250
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