第十八話 じれた父親は電撃訪問
その日の、すっかり太陽が山際に隠れた頃。
「昨日は沢山、
「うべなうべな。(そうだなあ。)」
「今日も食べれるかな。」
「バカ言え。もう食べきっちまったろ。あれは副将軍殿のちょっとした心遣いだって話だ。」
「ああ……、縁談のねぇ……。」
とのどかに兵士たちが話しをしていると、
「軍監殿はどこか! ここにいると聞いてきましたぞ!」
兵士がみな、
「いやいや、違うでしょう。春日部真比登さまは、こんな
本物の
集った兵士は、皆、
(あ、そうだった。コイツ
と思い出した。
福耳の立派な
「軍監殿! 探しましたぞ。」
佐土麻呂は、ふん、ふん、と鼻息荒く二回頷いて、
その姿からは、
ぱち、
(交渉事には、人懐こい笑顔も重要。
にこり、とひとまず笑顔を浮かべる。
「軍監殿は、此度の縁談、どうお思いですかな? お返事はまだでも、少しでも前向きにお考えなら、ぜひ、娘に
「いやぁ、あの……。」
「是非に! 頼みます! 娘は
しかし、軍監殿は、娘以上の博識でいらっしゃる。
縁談で、あのようにしおらしい態度を娘がとったのは、軍監殿が初めてなのです。」
「そんなつもりじゃ……。」
「わかってくだされ!」
佐土麻呂は、
「
私は妻に先立たれ、残された二人の娘は、かけがえのない宝物です。
ここは戰場。いつ何があってもおかしくない。
もし私が、娘を婚姻させられないまま、黄泉にくだる事となったら、死ぬに死にきれません。
黄泉で私を待つ妻に、どんな顔をして会えるというのでしょう。
老骨を笑ってくだされ。
娘にささやかな、人生において大きな幸せを、与えてやりたいのです。」
佐土麻呂の目には、光るものがあった。
「こ、婚姻は……、返事はまだできませんが、
それだけ、小さな声で言った。
佐土麻呂は源の手を離し、ぽん、ぽん、と源の肩をたたき、
「それでけっこうです。ありがとうございます。
と帰っていった。
「すまないな、源。」
源は、しょぼん、とうつむいたまままだ。
「……いえ。オレが
「頼む。」
「良い父親だな。……源、いつまでもこのままではないさ。なあ、
そろそろ、騙すのも限界だ、と
「……まだ。真実を言うのは、まだ、待ってくれ……。」
もし、偽りの縁談だったと知ったら、
今朝、源ばっかり花束を
そしたら、驚くような、幸せな出会いがあった。
しょうがない、ずっと
芍薬の花を渡せた事だけは、自分を褒めてやりたい……。
そんな
また明日いらっしゃい、と言ってくれた。
(明日……、今朝のような、オレにとっては、まぶしすぎる時間を過ごせるのだろうか。
オレはどうしてもそれに手を伸ばしたい。手放したくない。)
「いつまでも騙したままでいられない、というのはわかっている。いずれ、きちんと言う。だがもう少しだけ、オレに時間をくれ。……すまない。」
「
と大きな声をあげ、源の肩をだき、
「今夜はオレが
と兵舎に源を連れていった。
「すまない。オレだって、わかってるさ……。」
とつぶやく。
「あの
と言ったが、本当はわかってる。
───何とも思っていない。
そして、
(……もし、
何度も思ってきた事だが、
その副将軍殿は、勇気を示す、と、戰場に立ち、あっけなく黄泉にくだった……。
もし、
そしたら今頃、堂々と、
(そうだ。オレは
あの美しい
会いたい。
あの天女のような微笑みを見たい。
それだけで良い。
それだけで……。
「ははは……。」
バカな話だ。
救いようのない話だ。
そんな、もしも
いずれ、この偽りを正直に打ち明けねばなるまい。
いつまでも、源や
あの天女の微笑みは、それまでの、つかの間のものだ。
わかっている……。
それなのに、
「しょうがねぇ奴だなァ。オレは……。」
偽りは長くは続けられないとわかっている。
でもまだ
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