第九話 思纒 〜思ひまつわり〜
───まだあまり朝廷になびいていない
「
この時代、東北は奈良の
朝廷は、東北の支配を諦めなかった。
それは、中国──
奈良の朝廷も、従える蛮族がいる強国だと、内外に示したかったのである。
朝廷はじわじわと、
蝦夷は、当然、反発をした。
小競り合いを抜かせば、古い反乱の記録は、和銅二年(709年)、
今より六十五年前だ。
それ以降、ずっと、反乱続きであったか、というと、そうでもない。
反乱のない期間もあった。
朝廷は、
そしてまた、新しい
ある者は朝廷に帰慕し、ある者は、反抗の戦に身を投じる。
蝦夷とて一枚岩ではない。
天平宝字三年(759年)に建てられた
* * *
(なんで、
そんな、ありえない。
気が動転していて、気が付かなかったのか。
そんな事があるのか?
見えたはずだ。
なのに……。)
「けっこうよ。あたくしをここまで運んでくださり、感謝します。」
そう言って、
笑って……。
(
しとやかな所作、華奢な肩、細い腕。つかのま、馬上で抱いた、衣越しの、身体の温もり。
良い匂い……。
目を閉じて、意識のない時の顔は、月明かりに照らされ、ただただ美しかった。
そして、自分の頬をはたいた時の、烈火のごとき怒り。
源に難題をふっかける時の、大蛇がとぐろを巻いたような、怖い顔を思い出す。
あんなに美しい
あんなに怖い女も。
あんなに強い女も。
領主の庭で、顔色悪く、気丈に、皆にお礼を告げていく姿。
恐ろしい目にあった直後で、顔色が青白く、今にも倒れそうで。
はっきりとよろめいた時、
気がついたら、足が動き、
「顔色が真っ青です。よろしければ、部屋までお送りします。」
と言っていた。
今、冷静に思い返すと、そんな事、あの領主の娘は望まないだろう、と分かるのに。
(オレは何をやっているのだろう……。)
正確に言えば、
……いや、まだ、
次に会ったら、やはり、近寄るな、という目で見られるのかもしれない。
(確かめたい。次に
自分があの怖く、気位が高そうな
でも、その欲求が自分のなかで、大きすぎて、抑えきれない。
そのように思えるからだ。
しかし、
領主の館に行けば良いのだろうか?
困った
「なあ、また
と訊いてしまった。
「あ!
と
「昨日、
「オ、オ、オレだって、
ちょっと嘘である。
「
「あれ? 有名?」
「
「……ごめん。」
その通りなので、
「まあ、良いですよ。
と
まさか、自分が本当は
(オレと
それに、そんな
「違う。そんな事は言えない。ただ、訊いてみたい事があるだけさ。」
と
「こらー!」
と
ちなみに、顔の左半分を、
* * *
若草の 思ひつきにし
君が目に 恋や明かさむ
長きこの
(
あなたの目に、オレを映して欲しい。
あなたに恋い焦がれ、オレは夜を過ごすのだろうか、長いこの夜を。
万葉集 作者不詳
↓挿絵です。 https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330669048842319
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