第八話 とことめしつも
やがて、
その武勇で鎮兵のなかで
もちろん、鎮兵のなかでも、
しかし、
この場合の挨拶は拳をもってする。
いつしか、
ちなみに、
と言っても、鎮兵として暮らすなかで、ほとんど、
休日、郷の市へ、仲間とともに繰り出す時は別。
行く先々で、
そう、言いしれぬモヤモヤとした、ちいさな怒りが、いつも
疫にかかると、よっぽどの金持ち以外は、薬草など煎じて飲めぬ。
疫にかかってしまえば、人はコロリと命を落とすのだ。
その頃は、まだ、顔を隠さず、郷を歩いていた。
一月。
雪深く、風はなく、月明かりが煌々と白い大地を照らす、夜。
年上の兵士が、
「
こんな寒い日は、
と誘ってきた。
「でもオレは……。」
と
「なあに、向こうも商売だ。うんと代金を弾んでやれば、向こうもニッコリさ。
と言う。
「よ、よ、よーっし……。」
と
結論から言えば、この、年上の兵士の見通しは、甘かった。
郷ではさんざん、
十七歳。若かったのである。
部屋で
「あの……、オレ……。」
と
「イヤ───っ! 化け物! こっちに来ないで! あっちに行け! あんたみたいな
火鉢は右のこめかみにあたり、ごつん、と重い衝撃が
(あ……!)
身体が震えた。
(この
わななき、握りしめた拳が震え、初めて、本気で
拳が震える。
「
……生きていれば、
(
もしかしたら、
殴れない。
この怒りのまま殴ったら、本当に殺してしまう……。
騒ぎになり、駆けつけた
「お代金は全てお返しします。
と頭を下げたので、
よろよろと、気心のしれた仲間のもとへ、
ちょうど、庭で焚き火を囲み、何人か土の地べたに座り、
「よう、混ぜてくれよ。ほら……、塩。浄酒のつまみにしようぜ。」
と
隣に座っていた兵士、
「おう、呑め、
と、
「ああ……。」
吉麻呂の気遣いにぼんやりと返事しながら、
怪力の
この先いつか、兵舎を出て、家を買い、
(……いや、オレは泣き叫ぶ
そんな可哀想なことは、したくない。
(
ぱちぱち、爆ぜる焚き火を眺めながら、
(ああ、そういう事は、オレは、ずっと一人なのか。このような
そうか、一人なのか……。)
と、腹の深いところで、すとん、と理解した。
仲間がうたう。
「※
(高浜の下風が淋しい音をたてて吹く。
こんな夜には
醜い乙女や、
ははは……、と皆が唄に笑うなか、
(
オレは、そんな
「うっ……。」
(なあ、
「くあぁ……!」
それ以来、
またあのような態度をとられたら、次こそは、
───お兄ちゃん、あたし達のぶんまで、幸せになってね───
生き残ってしまった兄は、その、どこにあるか分からない、良くわからない小さな光を、探さなければいけない───。
* * *
※参考
古代歌謡集 日本古典文学大系 岩波書店
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