第二話 身代わり確定(斬首の危険性があります)
「
彼は
「もちろん。オレの夢は、いつか
堂々と言った。
彼は、ほどほどの家の出身であり、教養があった。
顎に少しの髭をたくわえた
「そうか。それが良い。身代わりを立てよう。
と、ぱんと手を打った。源は困り顔で、
「え……、オレ、嘘つくのはな。相手の
と言う。
「お前は優しいな。それは美点だ。
いいか? 騙すって言っても、ほんの一晩さ。
おそらく、気難しい
ところで、おまえ、
「それは、普通に………。あれ?」
源は首をかしげる。
「
勝利の宴には、顔を半分隠して出て、給仕の女官に喋る言葉は、はい、ありがとう、どうも。───この三つだけだ。」
「………。」
源はこの
絶句した。
「
そんなヤツに、鬼より怖い
縁談は、今宵だ。
今頃、父親から
一晩だけだ。うちの
「で、でもよ……、豪族を騙すことになるだろ? バレたら……。」
源がうつむいて、言葉の続きを呑み込んだ。
「源! その時はオレが謝る! そして、この
いつバレても良いように、オレも顔半分を隠して、供として縁談についてくよ。」
必死である。
「年齢が違うだろ。オレは十八歳。
と言うが、
「源は背丈がある。年齢は、それでなんとかなるさ。夕方で、蝋燭の明かりのもとだしな。」
と言う。
「顔ではバレない。
オレもついてくよ。バレて斬首は、オレと
「……わかった。
「うぉぉ……。ありがとう!」
「でも、その二つ名は面と向かって言われると照れる。」
「なんだ今さら。それについては諦めろっていつも言ってるだろ。」
見守っていた兵たちも、笑う。
二十一歳の
「源、恩に着るよ。……おまえ、国に
と訊く。源は照れて鼻の頭をかき、
「そんなの、いねーよ!」
と少し顔を赤くする。
「おまえ、性格良いし、顔良いし、背高いし、教養あって……、ん? 案外、気難しい
と言ったので、
「まったくだ。はは……。」
と笑う。野次馬どもも、うんうん、と頷き、また、笑う。
「もしバレて仲良く
とつぶやいた。
普段、人を悪く言わない
「オレ、聞いてたけど、副将軍殿、
お前は、
副将軍も、いい人だと思うよ?」
としれっと言うので、
美貌の副将軍の、
(悪気はねぇんだな。きっと、
……誰でも、
とくに、不細工は嫌、なんて
「……わかった。じゃあ、優しく化けて出てやるさ。」
「なるべく、そうならねぇと良いなぁ。」
いついかなる時も勇猛果敢な、
そのような死に様は、なるべくさらしたくない、と
「上手く行くさ。今夜一晩、しのげば良いだけなんだから。」
「オレは、
井戸へ歩きだした
* * *
その一室。
長女の
「……どうやっても、見つからないようね。」
四つん這いになって、床を探していた、年若い、十七歳の女官が、はっ、と顔をあげた。
すこしソバカスがある。くりん、と縦方向に大きな瞳が愛らしい
二十三歳の、この部屋の主が、美しい切れ長の目に憂いをのせて、桜色の唇から、ふっ、と息を吐いた。
「もう良いわ。今は戦時。他の女官は、医務室で手伝いを命じています。
この部屋の管理は、あなた一人にまかせているわ。
だから、失くしたのは、あなたの責任よ。他の者は、いじらないのだから。」
「……申し訳ありません、
「あの
「……はい。」
「お出し。」
「はい。」
主と、女官。これだけで、通じる。
女官、
無言でうつむく。
「十。」
「一。」
と数をかぞえ、ふくらはぎを木の枝で打った。
「……うっ。」
女官は歯を噛み締め、耐える。
冷酷な顔で、
「二。」
数え続ける。木の枝がしなる音が続いた。
「これで許します。」
と告げた。あまりに高価な首飾り。
女官は、
「あ、ありがとうございます。罰に感謝します。」
息も絶え絶えに、床に向かって、やっと言葉を落とす。
「よろしい。」
そう
「入ります。」
と別の女官の声がした。
「お入り。」
入室した女官は、父である
女官は、礼の姿勢をとるが、床に座りこんだ
「
(わざわざ、着飾って来い、と言うとは。
まさか、またか。)
父上が、婚姻しろ、縁談だ、と頻繁に言ってくるのだ。
父上のことは、大好きだが。
(───
「はあ……。」
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330667871916532
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