バスの中で20歳くらいのJDらと相席(隣の席)になったときにやってしまったこと
島尾
変態ではない
俺は男である。
今日、長命寺(滋賀県の、琵琶湖のそばにある山の上に建立された寺。観光客がとても多く、バスも出ている。カップルや夫婦が多い印象があったが、一人でも存分に美を堪能できる大きな寺)に行った。
その帰りにバスに乗り、帰っていた。すると、ラコリーナ(女子に大人気のテーマパーク。甘いものをたくさん食べられるのだろうか。カップルとイチャイチャするよりも、女友達どうしでワイワイ楽しむことができる場とみられる)前のバス停から大量の女(おばさん、後期高齢者、若い女の子)が乗り込んできた。
俺は最後尾の一番奥に座っていて、ラコリーナで楽しみ尽くして疲れた女が隣に座るのは即座に確定した。そしてJD、女子大生が隣に座った。
バスの席は仕切りなどなく、連続的につながっていた。最後尾の5人座れる座席には、一番端の俺を除いて、若い女の子に占有された。
隣に座ったのは、おしゃべり好きで同性となら誰とでもすぐ仲良くなれるタイプと思しき量産型の女子だった。ここで、あえて量産型と書いたが、否定的意味はない。多くいるタイプというだけである。声質もまあまあ俺の好みだったし、いい匂いもした。何ら嫌なことはなかった。
座席の間隔のせいで、俺と彼女の太もも同士が接触していた。また、俺のアウターの裾がその女子の太ももに敷かれた。それを俺は微かに気にしていたが、女子のほうは仲間たちと一年生の愚痴や出身地の違いについての話題、家賃の話題、前方の長い車列に対して「これ全部ラコリーナだよね」といった楽しげに会話していて、俺の太ももや俺の裾のことを気にしていた確率はおそらくゼロに近い。
若い女の子の匂いは素晴らしく芳しい。この事実を否定することは、自分の男の本能部分を否定し隠蔽するに等しく、無意味で嘘臭い思考だといえる。俺は呼吸を理由にしてその芳香を嗅ぎ、悦にいってしまった。窓から見える景色を眺めていたが、芳香は鼻の中に許可なく侵入し、俺の海馬を支配下に収めようと企んだ。
太ももは、程よくむにむにしていて丸みを帯びていた。痩せギスの俺の太ももは、その丸みとやわらかさを鋭敏に感知した。バスの振動に合わせて太もものむにむに指数も振動し、俺の「気にする度合い」も振動した。
車窓からの景色は京都を彷彿とさせる町屋の風情が漂い、カフェや土産物屋、和菓子店などさまざまなお店が並んでいた。女子大生はそれを見て「かわいい〜」と高い声で言っていたが、俺はそれを否定する。町屋風情漂う建築物の色は茶色または黒または少しの白、悪く言うならば、すすけて汚い。しかし日本人の多くはそういった不完全なもの、適度に汚れがあるものに無類の美的鋭敏感覚を得る。おそらく女子大生はそういう意味でかわいいと言ったのだろう。だが、おかしいと思う。美しい、良い、興味深い、をかし、この辺りが妥当なのではないだろうか。そういえば昨日も猫カフェに行ったとき客の女の人が「え、何これかわいすぎひん?」と言っていたが、俺の目には「かわいい」よりも「面白い」「すさまじい」という感想が強かった。猫がかわいいのは当たり前なのに、わざわざ言う意味はない、という思考回路が出来上がっているし、かわいいという言葉はその対象を見下して既に支配下に置いているがゆえの無意識な発言と思えてならず、極力使いたくない言葉だ。ましてすすけた茶色の建物に対してかわいいなどという感想は意味不明に聞こえてならない。他、芸人の秋山が言ったように、ただの岩を見て「見透かされてる気がして」などとのたまい涙を流す過剰な感受も意味不明と思える。
バスは終点に到着した。俺と女子大生たちは席を立った。なぜかいい匂いは減少していたが、相変わらず愉快な会話を継続していた。
俺は、この量産型のかわいい女子大生たちの幻惑から離れるため、ふと目に入ったラーメン屋でとんこつ味玉ラーメンをずるずるやった。
バスの中で20歳くらいのJDらと相席(隣の席)になったときにやってしまったこと 島尾 @shimaoshimao
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