co-dependency

作者前書きーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちょっとした報告を兼ねて番外編の更新です。今話の更新をもって、しばらく活動を休止いたします。二ヶ月〜半年以内には戻ってきます! 少しリアルが忙しくて……こんな作者で申し訳ありません。

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 12月24日、クリスマスイブ。せっかくだから去年と同じようにお泊まり会がしたいという菫の要望によって、今年も再び一緒に過ごすことになっていた。


 ただ、今年は去年と違って僕が小野寺家にお邪魔している。


 流石に二年連続僕の家で、というのはあれだからな……茂和さん達からしたら僕なんてただの邪魔者だろうが。


 そして今年もまた菫が料理を作りたいと言い出し、日葵ひまりさんと二人でキッチンに並んでいた。僕も何か手伝いたかったのだが、戦力外通告を出され、結局食後の皿洗いを担当することになった。まぁ何もしないよりだいぶ気が楽だ。


 二人がキッチンにいる間は、茂和さんとお話ししたりして時間を潰した。やはりカッコいい大人の男性といった感じで、正直少し憧れている人だ。ああいう大人になれたらいいなーと、ぼんやりと思っている。



 その後も賑やかに過ごし、少し早めの夕食を取った。去年よりも更に腕が上がって、昔は卵の殻すら割れなかったとは思えないほど美味しい料理が並んでいた。



「すごいな……勉強もできて料理もできて、完璧超人か……?」


「ふへへ、でしょー?」



 素直に褒めると、頬を赤らめながらドヤ顔をする菫。僕の彼女があまりにも完璧すぎて涙が出てくる。僕も少しでも吊り合うように、自分磨き頑張らないとな、と一人決意した。



 ご飯を食べて片付けを終えたら、いよいよ今日のメインイベントだ。二人で防寒着を着て家を出る。



「去年は結局行かなかったからね。今年こそは、少しくらい恋人らしいことしないと」



 そう言って僕の手を引く菫と共に、近くの公園へ向う。


 それなりに大きな公園で、今はイルミネーションのイベントが行われている。


 そう、去年と違い今年は一緒にイルミネーションを見にいくことになったのだ。もじもじしながら「一緒に行きたい」と言ってきた彼女に、ほぼ脊髄反射で快諾したものだ。



 公園は、いつもとはかなり雰囲気が変わっていた。木々がカラフルにライトアップされ、夜だと言うのに仄かに明るくなっている。


 以前見た時は雰囲気を楽しむだけであまり心を動かされなかったのに、告白して色々と余裕が生まれた今、こんなにも綺麗に見えるものかと驚いた。


 きっと、すぐ側に菫がいるからこそ、こんなにも輝いて見えるのだろう。隣を見れば、薄暗くてもはっきりわかるほど頬が緩んでる。やはり菫は笑った顔が可愛い。


 そんな僕の視線に気付いたのだろうか。こちらを見た後、恥ずかしそうに目線を彷徨わせる菫。誤魔化すように腕を絡ませて密着してくる。


 どこかそわそわしている彼女と共に、公園をゆっくり歩いて周った。幻想的な雰囲気の噴水などを見かけると、一緒に写真を撮ったりもした。


 二人ともあまりこういうイベントの楽しみ方はわかっていなかったが、ただ恋人と一緒に時間を過ごすというだけで十分楽しかった。今日撮った分の写真も、帰ったらアルバムに加える予定だ。


 そうして公園を一周し終えると、自販機でホットココアを買って空いているベンチに腰掛ける。それなりに広い公園なので、歩いている内に少し疲れてしまった。


 缶のココアを握れば、冷えた手にじんわりと熱が伝わる。その温度差で手に若干痛みが走った。思ったよりも缶が熱いので、火傷しないように両手で交互に持つようにする。隣の菫も手袋を外し、缶を握って手を温めている。やはり手袋越しでも冷えるのだろう。


 火傷が怖いのか、恐る恐る口を付ける菫の様子は、なんだか警戒した小動物のような可愛さがあった。そういえば猫舌だったなと思い出す。


 やはり熱かったのだろう。うっと唸ったあと慌てて口を離す菫。一連の動作をじっと見つめていた僕を半眼で睨んでくる。


「何見てるの……」


「いや、可愛いなぁと」


「うるさい」


 それからはチビチビとココアを飲みながら、景色を眺めて静かに過ごした。菫はどこか落ち着かない様子でチラチラとこちらを伺っている。


 敢えて何も言わずに待っていたが、流石にこのままにするのは可哀想だ。そっと頭を撫でてこちらを向かせる。



「どうした? 何か言いたいことがあるんだろ?」


「ん……よくわかったね」


「これでも彼氏だからな」



 家を出た時からすでに言いたいことがあるのはわかっていた。こういう時、大体菫はそわそわしているからな。大変わかりやすい。公園を一周している間も妙に浮き足立っていた。



「あのね……」



 そう切り出してから、目を閉じて黙り込む菫。言葉を整理しているのだろう。こういう時、菫はよく考え込む癖がある。



「その…………あぁ、そうだ。蓮は、もう志望校は決まった?」



 結局、どう切り出せば良いかわからなかったのだろう。そんな取ってつけたような質問をしてくる。


「僕は、そうだなぁ。まだ将来の夢もはっきりしてないし、特に決まってないな。受けられる中で一番高いところを受けようとは思ってるけど」


「そっか……」


「そういう菫はどうなんだ?」


 そう聞き返すと、菫は困ったようにうーんと唸りながら目を瞑る。そして悩ましげに口を開いた。


「私も、まだ決まってないかなぁ……でも、蓮と同じ大学に行きたいとは思ってる」


「それは、良いのか……? 本当に。大事な選択だし、菫ならもっと良いとこに行けるだろ?」


 正直、僕も一緒の大学に通ってみたいとは思う。一緒に通えたら、きっと夢のようなキャンパスライフを送ることができるだろう。でも、そんなことのために菫の選択肢を狭めてしまうのは……あまり良いことだとは思えなかった。


 口に出すのは恋人として失格になってしまうから言わないが、いつか菫が僕に飽きてしまったらと思うと怖いのだ。きっと、どうしようもなく後悔してしまうだろう。


 こうしてすぐ卑屈になって恋人を疑うのは、やはり彼氏として最悪の行いなのだろうが。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか菫がこちらを真っ直ぐ見つめていた。その目が優しげに細められる。



「だって、私の夢って幼稚園の頃からずっと……君と添い遂げることなんだよ? 私は……君といられたら満足だよ」


「そう……か」



 彼女の添い遂げるという言葉に、心臓がドクリと跳ねる。先ほどの思考を咎められたような気持ちになった。思わず歯切れの悪い相槌になる。



「それでね……」



 そう、呟いて、再び数秒沈黙する菫。先ほどまで柔らかかった表情はやや緊張を帯びている。



「大学に行っても……ずっと一緒にいようね。って、言いたかったの」



 ようやく口を開いたかと思うと、そんなことを強張った表情で言ってきた。彼女の瞳が、不安げに揺れながらこちらを見つめている。ココアの缶を強く握る手が、視界の端に見えた。



「大学生になったらさ、きっと可愛い子も優しい子も、色んな女の子がいると思う。私なんかより良い人が沢山…………でも、絶対に浮気しちゃダメだからね?」



 その言葉を聞いて、僕は思わず声を出して笑ってしまった。



「なんで笑うの! 結構真面目に言ってるんだよ?」


「いや、バカにしてるんじゃなくて、似てるなぁと」


「似てる?」


「さっきまで僕も同じこと考えてたから」



 やはり似たもの同士のカップルだったらしい。ていうか、僕はともかく何で菫はこんなに自己評価が低いのだろうか。自分の凄さは十分理解しているだろうに。やっぱり、前に言っていた罪悪感とやらのせいなのだろうか。


「そう、なんだ。ふーん…………でも安心して。私が浮気するなんて絶対有り得ないから。ていうかそもそも蓮以外の男は異性としてすら見れないし」


「お、おう。割とすごいセリフだよなそれ」


「うっさい。私もくさいセリフばっか言ってるのちょっと恥ずかしいんだよ?」


「まぁ、いつものことだな」


 そう言って笑ってやると、恨みがましい目をこちらへ向けながら頬を膨らませる菫。その頬をつついてしぼませる。


 間抜けな顔をする彼女の頭を撫でながら口を開いた。



「僕も、幼稚園から片思い拗らせてたやばいやつだからな。浮気なんてするわけないだろ?」


「ふふ……それならいいけど……まぁ、愛想を尽かされないよう頑張るよ」



 そう言って撫でられながら猫のように目を細める彼女は、今何を考えているのだろうか。


 菫は、こういうスキンシップが好きだ。放置しているとうざいくらいグイグイくるようになる程には。


 やはり、不安にさせないようにも、これからは今まで以上に甘やかしていこうと心の中で決意した。こんなことをわざわざ言ってくるくらい不安にさせてしまったのだと思うと、自分が情けなくて仕方なかった。


 その不安を溶かすように、丁寧に頭を撫でる。肩に寄りかかってきた彼女を抱きとめる。



「不安にさせてごめんな。大丈夫、僕は今までもこれからも、ずっと菫のことが好きだから」



 そう小声で囁けば、彼女の体から少し力が抜けた気がした。



 しばらくそうしていると、何かを思いついたように体を起こした菫が不意打ち気味にキスをしてくる。突然のことに硬直する僕に、彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべている。そして再度キスをすると、満足げに笑った。



「じゃ、そろそろ帰ろ」



 そう言いながら勢い良く立ち上がると、僕の手を握る菫。思考が追いついた僕は、彼女に引っ張られる形で立ち上がった。


 そのタイミングになって、ようやく周りに人が沢山いることを思い出した。それは菫もだったのだろう。周りを見てピクリと跳ねたと思うと、わざとらしく咳払いをしている。


 よく見れば、周りの人がやや遠巻きにこちらを伺っていた。そりゃベンチで頭を撫でたりキスしたりしてたら目立つだろう。いくらイルミネーションでカップルが多いといっても。


 若干気まずくなった僕たちは、逃げるように公園を後にした。途中、顔を真っ赤にした女の子がこちらを凝視していて余計に恥ずかしくなった。



 公園を出て、暗い道を歩いていく。しばらく二人とも無言だった。気まずい無言ではない。穏やかで静かな帰路であった。


 家に着く直前、不意に僕に顔を近づけた菫は、僕の耳元で囁く。



「あの日、私のこと、逃さないって言ってくれたんだから…………君も、絶対に逃げないでね? ずっとずっと、一緒にいようね」



 そう告げて顔を離した菫は、蠱惑的で、怪しげな笑みを浮かべていた。不思議と、彼女から目を逸らすことができなかった。



「ふふ。こんな重い女で、ごめんね?」

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TS転生したので幼馴染系ヒロインムーブする【本編完結】 エカチェリーナ3世 @YekaterinaIII

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