宇宙防衛隊 ~パープルバグズ編~

クロノヒョウ

第1話




「はいどうぞ~。どこまで行きます?」


「地球までお願いします」


 火星の近くでお客を乗せた宇宙タクシー船。


「地球ですかぁ。お客さん、観光ですか?」


「いや、まあ……」


 はっきりとしない返事にパイロットはバックミラー越しにお客を見た。


 何やら大きなリュックを背負っている男は下を向いたままだった。


「最近多いですよね、地球に行く観光客」


「はあ」


 パイロットは宇宙船を発進させながらミラー越しに喋り続けた。


「どうします? 高速ワープで行きますか? それとも下道で?」


「お任せします」


「そうですか。いや、私もちょうどお腹減っちゃって。休憩しようかなって思ってたんでね。高速ワープ使っちゃいますね」


 パイロットは何やら嬉しそうな顔をしながら高速ワープへと宇宙船を進めた。


「そうだ、お客さん知ってます? 最近高速ワープの途中に星ができたんですよ。休憩するのにぴったりでしてね。いや、本当に小さな星なんですけどね。軽く食事くらいならできますよ。どうです? ちょっとよってみます?」


「はあ」


「じゃあよりますね。もうすぐですから」


「……」


 表情ひとつ変えない客の男。


 男はただ自分の腕に付けているタブレットの画面を触っていた。


「地球かあ。私もよく地球までお客さん乗せるんですけどね。なにしろ駐船場の入り口までなので中に入ったことはないんですよ。ハハッ。あ、そうだ。地球って意外とセキュリティもしっかりしてるそうですよ」


「はあ」


「地球に入るのは本当に審査が厳しいらしいです。だから地球の前には常に長蛇の列が出来てるんですよ。それでも追い返される宇宙人がほとんどみたいですけどね」


「へえ……」


「おっと、着きましたよお客さん。ここが新しくできた小さな星です」


 宇宙タクシー船が停まるとパイロットと客の男は船を降りた。


「向こうにショップがありますので」


 パイロットがそう言って背中を向け歩き出した瞬間だった。


 ――バァンッ


 客の男は背中のリュックから大きな銃を取り出しパイロットの頭を撃ち抜いた。


 突然の衝撃を受け声を出す暇もなく倒れるパイロット。


 客の男はさらにリュックから何やら四角い容器を取り出すと倒れたパイロットの頭の中に手を突っ込んでいた。


 その時、この小さな星に次々とたくさんの宇宙船が到着した。


「よお、ご苦労様」

「よく見つけたな」

「お疲れ」


 宇宙船から降りてきた者たちは星の奥へとどんどん進んでいった。


「隊長、これです」


 タクシー船に乗っていた客の男がひとりの男をそう呼んで、パイロットの頭の中から取り出した紫色のネバついた物体を見せた。


「ああ、パープルバグズ。あらゆる生命体に寄生しあらゆる生命体を食す、特に地球人を好んで食べるらしいな。最近宇宙で多くの地球人が行方不明になるとの報告を受け調査していたが」


「こいつらの仕業だったのですね」


 タクシー船に乗っていた客の男がそのパープルバグズという生命体を四角い容器に入れ蓋をした。


「宇宙タクシー船が絡んでいることはわかっていましたが、まさかこんな星を作っていたとは」


「うむ。星というより連中にとっては巣のような場所なのだろう。ここに宇宙人を連れ込みゆっくりと食する。しかしよく正確な位置情報がわかったな」


「ああ、このパイロット、タクシー船のナビでここをロックしてましたから。俺はその座標を送っただけです」


「そうか。あとはどれくらいの宇宙人がパープルバグズに寄生されているのか。だな」


「地球のセキュリティももっと強化した方がいいですね。奴らはどうやらあの地球の入星審査に並んでいるようですから。身体スキャンでバレるとわかっているだろうに」


「……そんなに地球人は美味しいのか」


「衝動に駆られるくらい……でしょうね」


「では私が早速地球に行ってセキュリティを強化するよう伝えるとしよう」


「はい」


 隊長と呼ばれた男が宇宙船に乗り込もうとした時だった。


 ――バァンッ


 客の男はまたも銃で隊長の頭を撃ち抜いた。


「……ったく」


 男は倒れた隊長の頭からパープルバグズを取り出すと四角い容器に入れた。


「よだれ垂らしてんじゃねえよ」


 男はため息をつくと腕に付けているタブレットを起動した。


「宇宙防衛隊本部へ。寄生して宇宙人を襲うパープルバグズを捕獲。至急地球にセキュリティ強化の依頼をお願いします」


『了解』


「今からサンプル用にパープルバグズを二匹持ち帰ります」


『わかった。全隊員に告ぐ。今からその星の破壊準備にとりかかる。急いで撤退しろ』


「了解」

「ラジャー」


 通信を聴いた隊員たちは宇宙船に乗り込んだ。


 客の男も乗ってきたタクシー船に乗り小さな星をあとにした。


 数秒後、大きな爆発音と振動を感じた。


 その後しばらく高速ワープは工事のため通行止めとなったが被害はそれだけですんだ。


 宇宙は、地球は今日も宇宙防衛隊のおかげで平和が保たれている。



            完





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