100万回死んだ僕

藍田レプン

100万回死んだ僕

 皆さんご存じないと思うが、実はこの世界は過去に数えきれないほど『滅亡』している。

 安穏とした日々を過ごしているように見えて、1999年7の月に、かのノストラダムスが預言した通り世界は終わっているし、2012年の末にマヤ歴が途切れた日にも滅亡した。

 世界の終わり方は様々で、巨大な隕石がぶつかって一瞬で終わる時もあれば、火山が噴火して緩やかに終わる時もあるし、世界戦争が始まって核兵器で滅亡する時もある。

 数日は平和が続く時もあれば、一日に何度も滅亡する日もある。

 変わった形の雲が現れたり、戦争が始まったり激化した日は滅亡しやすいね。

 そんなに何度も滅亡しているのに、どうして世界は続いているのかって?

 そうだね、不思議だ。

 ただ、僕はたしかに世界が終わるのを数えきれないほど経験しているし、そのたびに死んでいる。

 君は死んだことがある?

 あれは痛い。すごく苦しい。

 だから個人的には隕石で一瞬で終わってくれるのが一番楽で好きだな。

 何しろあれは本当に一瞬で死ねるから。

 空がぴかっと光って、それで終わり。

 世界はおしまい。

 話を戻そうか。

 どうして世界が数えきれないほど滅んだのに僕が生きているのか。

 それは『僕にもわからない』。

 ただ、僕自身の体験として僕はたしかに死んでいるし、世界も終わっている。

 でも、いつも『死んだ瞬間、世界は滅亡のトリガーが引かれる前に戻っている』。

 例えば隕石で滅亡した直後は隕石なんて落ちなかったことになっているし、大地震で滅亡した直後には地震なんて起きなかったことになっている。戦争で滅んだ直後には戦争なんてなかったことになっている。

 ここで僕はふたつの仮説を立てた。

 ひとつはとても現実的な説。『僕は狂っている』。

 すべては僕の妄想で、この世界は一度たりとて滅んでいない。

 まあ、常識的な人なら圧倒的にこちらを支持するだろう。

 そしてもうひとつの説はオカルトの領域だ。

 でも、僕としてはこちらを支持したい。

 だって自分が狂っているとは思いたくないし、それじゃつまらないからね。

 君は平行世界、パラレルワールドという言葉を聞いたことはある?

 ものすごくざっくり言うと、君が今朝パンを食べるかご飯を食べるか迷ったとする。

 そして悩んだ結果パンを食べたなら、ご飯を食べた君は君の世界には存在しなくなるけれど、もしご飯を食べていた君も別の世界に存在するとしたら?

 もし寝坊していたら? もし風邪をひいていたら? そしてそんな『もし』が世界中の生物や無機物に絶えず存在するとしたら、世界は無限に存在するんじゃないだろうか。

 そして僕は『滅亡する直前の世界線』にいつも存在して、滅亡した後は『その時は滅亡しなかった、間もなく滅亡する世界線』に転送され続けているとしたら?

 理由はわからないけれど、それなら僕はこの先もずっと、死に続けることになるだろう。

 幸いソシャゲのデータは新しい世界に移った後も継続されているから(このことから、僕は滅亡する世界とごく近しい分岐点の平行世界に転送されているのだと推察する)、ログインボーナスは毎日受け取れている。


 おっと、また滅亡が始まるらしい。さっき地球に宇宙人が襲来してきた。

 それじゃあまた、次の世界で。



 ───それは今から数十年前のことだった。

 善良な宇宙人が地球を訪れ、この星は『滅亡シンドローム』に侵されていると教えてくれた。

 地球はその意思を知的生命体である人類に譲渡したが、その人類たちがあまりに世界の滅亡について妄想するあまり、『滅亡しなければならない』という統合意思に支配されつつある状態だという。

 このままでは本当に地球は滅亡しかねない。

 解決策はただひとつ。人間と全く同じ知性と思考を持つ人工知能を作り出し、その人工知能に滅亡を電子データの中で体験させることにより、地球に『世界は滅亡した』と認識させること。

 そうすることで現実世界は滅亡を免れ、新しい滅亡パターンを人間が妄想すると(そしてその妄想を地球が受信し自己崩壊を引き起こそうとすると)電子データの中でそれが再現される。


「どうだい、『彼』の様子は」

「はい、今度は宇宙人の襲来で世界が滅亡したようです」

「宇宙人は久しぶりだなあ。昔はよく来たものだけれど、今は光速の壁やらワープ・ドライブの問題で妄想する人が少なくなったからな」

「ですね。ここ最近ずっと地震か火山の噴火だったから。あ、ログ見ますか?」

「ああ、見せてくれ。おっ」


 今回で100万回目の滅亡か。

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100万回死んだ僕 藍田レプン @aida_repun

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