雪の季節に

くれは

パッタ・タッシ

 タルミ・ウシ雪の季節ルミルーシュ吹雪が続く日に兄弟たちは楽器を出してきた。外に出られない間の楽しみと言えば、歌と踊りだからだ。

 みんなでかわるがわるリョマを叩いてジョウシを弾く。そして誰かがその真ん中で跳ね踊る。シャビマの周辺で見られるパッタ・タッシ跳ねる踊りだ。

 そのときは、ヴァロという女の子が踊っていた。


 ホレ・タッシ・タッシ踊りを踊って

 ホレ・パッタ跳ねて ホレ・パッタ跳ねて ホレ・パッタ跳ねて

 ホレ・ラウ・ラウ歌を歌って

 ディラ・ルッタ ディラ・ラッタ ルラ・ラウ・ラウ


 曲はどんどん早くなって、踊りはどんどん激しくなる。そのうちにヴァロはころころと笑い出して、その場に崩れ落ちた。


「もう、早すぎる!」


 赤い顔で息を切らせて兄弟たちを睨むけれど、その顔は確かに楽しんでいた。


「じゃあ交代!」


 次はトネムという男の子が中に立った。トネムが持っていたリョマはヴァロに渡される。ヴァロは息を整えながら、リョマを叩き始めた。

 そんな子供たちのところに母親のケヴァが声をかける。


「ねえ、あなたたち、イロジャムが減ってるのだけど、食べたりしてない?」


 子供たちは一斉に動きを止めて、お互いの顔を見合わせた。どうしよう、どうする、と視線が交わされたあと、一番上のエシムがそっと口を開いた。


「知らないよ。ラフヤ・イェミネゥレ小人への贈り物じゃないかな」


 それに同調して、周りの子たちも口々に知らない、イェミネ小人だ、と声をあげた。

 ケヴァは子供たちの顔を見回して、諦めたように溜息をついた。


「あなたたちがそう言うなら、ラフヤ・イェミネゥレ小人への贈り物なんでしょう」


 不問とすることにしたようだった。子供たちは安心したように顔を合わせて、笑い合う。


「ああ、早くカサミ・ウシ太陽の季節になったら良いのに」


 ヴァロが溜息まじりに呟く。


カサミ・ウシ太陽の季節は毎日やることがたくさんで大変じゃないか」

タルミ・ウシ雪の季節なら働かなくて良いもんな」

「でも、自由に外に出られるカサミ・ウシ太陽の季節が懐かしい気持ちにはなるよ」

「そう! それに夜には広場でみんな踊るじゃない? やっぱり踊るなら広場が良いな。みんな集まって、すっごく楽しいんだもん」

「お前が広場で踊るのはもう何年も先だろ」

「そんなのあっという間だもん。わたしは上手に踊れるようになって、注目されるようになるんだからね」

「はいはい、ほら、曲を続けよう」


 口ではいろいろ言いながらも、みんなそれぞれにカサミ・ウシ太陽の季節のことを思い出していた。その、太陽の光を。穏やかな風を。緑の森を。冷たく凍ってない湖の色を。

 そんな気持ちを乗せて、子供たちは歌う。踊る。

 家の外ではやまないルミルーシュ吹雪が吹き荒れていた。

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雪の季節に くれは @kurehaa

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