第38話
俺と伏見は先ほど俺たちを呼びに来た女性に連れられて侵入者が上陸したという島の東側の砂浜に来ていた。
侵入者を島の警備担当が複数人で遠巻きに囲んいるようで侵入者とどう接触するか俺の指示を待っていたと案内の女性がそう説明してくれた。
「なるほどね。そういうのも俺の仕事か、うーんどうしたもんかね。とりあえず話をしてみるか。問題ないよな?」
俺は伏見に一応なにか問題ないか確認した。
「ええ、伊藤さんの判断に委ねられてますので構いませんよ。なにかあれば伊藤さんの責任ですけども。」
「なんか最近俺への当たり強くないですか?」
「ご自分の胸に手を当てて考えてもらえばわかると思いますが?」
「うっす、それじゃとりあえず一人で行って来るんでなにかあっても俺が合図するまでこちらから攻撃しないように警備担当の人たちに伝えてください。」
冷たい態度の伏見から逃げるように俺は案内してくれた女性に指示をだして一人で侵入者の方へ向かった。
侵入者たちは如何にも異世界もののコスプレと言った格好をしている外国人で、俺が姿を見せると武器を構えると臨戦態勢と言った様子で武器を構えていた。俺は警戒を解くために両手をあげて敵意がないことをアピールした。
「えーと、私は貴方たちに危害を加えるつもりはありません。どうか武器を降ろしてください。あれ、てか言葉通じますか?」
見た目が少なくとも日本人ではないので言葉が通じるか俺は不安になった。
英語などもちろん話せるわけもなく、仕事で海外に行ったときはスマホを片手になんとかしていた。
だが俺の不安とは裏腹に侵入者の一人である弓を構えた男が構えを解いて日本語で返事をしてくれた。
「すまない、俺たちも争う気はない。ただ成り行きでここにきただけだ。ここが立ち入ってはいけない場所とは知らなかった。」
「そうですか、ではどうしてここへ来たんですか?」
「女神さまの命で異世界に逃げた魔王を討伐しに来たんだが、転移してきた場所がここから数キロ先の無人島だったので近くに見えたここを目指して海を渡って来たんだ。」
「異世界?魔王?ってことはもろにうち案件か。海を渡って?それは船でということですか?」
「いや、魔法使いの魔法で海を凍らせて渡ってきた。」
「あー魔法か、それじゃとりあえず俺らと一緒に来てもらっていいですか?実はこの世界魔法とかって一般的じゃないんでほいほい使われると困るらしいんですよね。だからうちで一時保護ってことで勿論悪いようにしませんし、その魔王のことも聞きたいんでね。」
「魔法が一般的ではない?ってことは魔法が使えない人間もいるのか。」
俺がそう提案すると弓を持った男は仲間の方に目線を送りなにやらアイコンタクトで意思疎通をしているようだ。
「わかった、こちらもこの世界の常識がわからないまま動いて余計な問題を起こすのは本意ではないからな。」
「そうれは助かる。」
男がこちらの提案を呑んでくれて一安心した俺は男たちの方へさらに近づいていく。
するとなぜか男たちは俺の顔をみて不思議そうな顔をしている。
「俺は伊藤怜治という。俺がどうかしただろうか?確かに君らに比べると整った顔をしてないが普通の人間なんだが。」
「いや、あんたの顔が知り合いに似ていたもんでな。少し驚いてしまっただけだ。」
「そうね、ちょっと老けてるけどどことなく勇者に似てるわね。」
「たしかに勇者様の面影がある顔をしていますね。」
「そうか?勇者に比べると圧倒的に筋肉がないだらしない体をしてるぜ?」
「戦士!そういう事いわないの!だからあんたはデリカシーがないって言われるのよ!」
どうやら俺は【ゆうしゃ】とかいう人に似ているらしい。
ゆうしゃってあの勇者か?まぁそんなことはどうだっていい。
悪かったなだらしない体で!つい一か月前まで普通のアラサー社畜してたんだから体が弛んでんのは仕方ないんだよ!!!
あの戦士とか呼ばれた鎧男は後で必ず嫌がらせしてやる…
そう誓った俺は代表者らしい弓の男と握手をした。
「名前だけ聞いてもいいですかね?」
「ああ、俺が狩人。んでデリカシーのない鎧男が戦士、ローブを着ているのが魔法使いでそっちのシスターっぽいのが僧侶だ。本当はもう一人仲間がいて勇者って男なんだがこっちの世界に来た時にはぐれたみたいでな。」
「そうだったんです。ではその勇者って人を探すのをこちらでも手伝いましょう、仲間は大切ですからね。ところで失礼ですが狩人や戦士ってこは職業とか役割なんじゃないですか?」
「それはたすかる。俺たちは魔王を倒す為に女神に祝福をもらってな、その供物として個人の名前を捧げたんだよ。だから俺らには名前がなくてな、それじゃ困るからって職業の名称で呼び合ってるんだ。」
「なるほど、それは失礼なことを聞いてしまって申し訳ない。ではここでいつまでも話をさせては悪いんで中へ行きましょうか。おーい、伏見さーん!」
俺は離れた場所で待機していた伏見を呼び事情を説明し、一時的に保護することを決めたことを話した。
「また貴方はそんな勝手なことを決めて…どうして相談してくれないんですか!?」
「ほんとにすいません…でも魔王とかの話もあるし間違った判断じゃないとは思うんですけど…」
「わかってますよ!貴方の判断は間違ってないことくらい!でも私は貴方の秘書なんですよ?少しくらい相談してくれてもいいじゃないですか…私は頼りになりませんか?」
「なに?伏見さん俺が頼ってくれないからいじけちゃったんすか?wかわいいなチヒえもんは――ぐへっ!」
俺は調子に乗りすぎて伏見の鳩尾への一撃をもろに食らってしまった。
俺らのやり取りをみて狩人たちが若干不安な顔になったのは気のせいだと思いたい。
闇鍋をしたらなぜか勇者と魔王と神様とラスボスの魂まで混ざったんだが? 塵兵衛 @zinbe
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