喧嘩界物語

@OnestO

第1話「芽吹き」


世界は荒廃していた。

夕日が草木も生えない大地を照らしている。

昔の人はこの光を"命の光"と呼んだし、大地を"母なる大地"と呼んだ。

今やただ茶色をしている大地に一人の少年が立っていた。

遠くには平成喧嘩……と書かれた看板が落ちている。

少年は、既に崩れ落ちた門をくぐった。そこには廃墟が広がっている。


「つわものどもが夢の跡」


旧世紀にそんな詩があったのを思い出した。


この廃墟は、かつて喧嘩師たちがしのぎを削る戦いを繰り広げた場所であり、長く喧嘩界の中心であった。

もう、1000年以上前のことだ。


叶徒かなと!」


少年はここで友人と待ち合わせをしていた。


「あ、殺禍さいか!」


叶徒かなとは目の前で手を振る小柄な少女に返事した。


「遅かったね、もう来ないかと思ったよ」

「ごめんごめん、ついいろんなところ見入っちゃってて……」

「待ち合わせが先でしょうが」

「だって、"あの"平成喧嘩塾だよ?!平成喧嘩塾といえば──」


殺禍さいかは「また始まった」とばかりに聞き流した。

叶徒かなとはこうなってしまうと止まらない。


そんな叶徒かなとの暴走を他所に、殺禍は自分の後ろにあった石碑を見ていた。大きな石碑は、ちょうど道路の交差点にあたる場所に建っており、待ち合わせ場所として有名になっていた。

そこには文字らしき物が小さく彫られていた。

それにはこう書かれている。


『ネットの海から上陸した我々は、"喧嘩"という特別な能力に目覚めた。

我々はその上陸した年を喧嘩歴元年とし、その能力を持つ者を"喧嘩師"と呼ぶことにした。

そして、喧嘩歴500年、ここパソロン大陸喧嘩板地方に、我らが平成喧嘩塾が成立したのである。』


「これって──」

「ねえ、殺禍さいか?聞いてる?」


殺禍さいかは気になるものを見つけると人の話を聞かない性格だった。


「ねえってば!」

「え。あ。ごめん」


彼女はいつもの笑顔で誤魔化した。


「これって、あの『平成塾碑文』だよね?」

「え、あの歴史の教科書に載ってる奴?」

「そう、それ。ここにさ」

「わ、ホントだ……ここにあったんだ」

「あれ?──」


殺禍さいかは碑文の下にうっすら何かが彫られてあるのを発見した。


「この下……なにか書かれてない?」


そのうっすら何か彫られているらしいものを見ようと、砂を払った。


「喧嘩界……再……?」


そこまで読んだ時、石碑から強い光が放たれた。

辺りは白に包まれていく。


「わ、なに──」





「お……」



「……い」



「……誰?」


誰かが呼んでいる声がする。


「……ん」


叶徒かなとはゆっくり目を開けた。

どうやら眠っていたらしい。


「ここで何をしているんだ?」


そこには先ほどの少女の姿ではなく、見慣れぬ青年が立っていた。


「……あなたは?」

「俺は霧雨だが、知らんのか?」

「霧雨……?あの?」


霧雨という名前は聞いたことがある。

たしか、そこそこの実力を持つ喧嘩師だったはずだ。


「は?俺は雨一族の長だぞ」


何を言っているのかわからないと評判の喧嘩師でもあった。


気づくとあたりが喧々轟々としていた。

石碑の周りには人の往来が盛んになっている。


(おかしい……)


自分たちがここに来た時には人は誰一人いなかったはずだ。

それにこんなに綺麗だっただろうか?


(これじゃあ、まるで──)


「あの、霧雨さん」

「なんだ?」

「今、何年ですか?」

「はあ?そこに時計があるだろ」

「え?」


彼が親指で指す方向を見ると、時計台があった。

時計台には年月日と時間がデジタルで表示されていた。

そこに書かれていたのはなんと──


(600年!?)


600年7月8日。

平成喧嘩塾が誕生して100年。

それはここが全盛期であることを表していた。


「あ、あの、キャスフィ共和国行の電車ってありますか?」

「キャスフィ?どこだそれ?」

「い、いえ……知らないならいいです」


霧雨がキャスフィを知らないはずがなかった。

なぜなら彼もそこで活動していたのだから。


(たしかキャスフィができたのは、1500年以降だったはず、霧雨さんが知らないのも無理がない)


ふと、殺禍さいかがいないことに気づいた。


「そういや、この辺で女の子見ませんでした?青いストレートの」

「見てないが」

「そうですか……ありがとうございます」


叶徒かなとはそう言って走り去ろうとした。





──が。





急に空間がねじれ、黒い立方体にかこまれた世界へと変わった。


(これは……喧嘩場バトル・フィールド!)


後ろから声がする。


「お前も喧嘩師なんだろ?俺と勝負しろよ」


叶徒は振り返る。

こうなっては後戻りはできない。



喧嘩承認バトル・レスポンス

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