大地鳴動 ギリギリ×バラバラ 〜誠司(♂)と久留美(♀)〜

花森遊梨(はなもりゆうり)

本編よ‼︎

「私はいま、事件の現場に来ています」

ここは一人っきりの夜の公園である。


私は久留美、フルネームは鬼打久留美(おにうち くるみ)ウォールナットとかいうな。


クルミや、お前…何人殺した…?とか懲役何年?もしくは死刑?とか言い出したやつは黙っていろ。


小学校の家庭科以来お裁縫なんてやっていないこの私が手作業で2時間かけてその口を縫ってやる。もちろん私の中に私がもう一人、トラウマ抱えた闇のそいつが誠司をやってしまったというわけでもない。



そしてこの状況が事件じゃないというやつは事件を誤解している。事件とは「人々の関心をひく出来事」なのだ。これについては、私の関心を引く出来事であり、完全無欠の事件である。


「あ、誠司がいない…」


なぜなら、そう、いつも一緒のやつがいないのである。これが事件でなければこの世界は、おしまいだ。


さてさて、なんでこうなったかというと


事件が起きる少し前。

午前2時。頭に蝋燭ぶっ刺して藁人形に五寸釘をぶち込むには最高の時間。


突然体を揺さぶられて目覚めた。

誠司が起こしにきたにしては早すぎる。



これはすなわち、朝バズーカ代わりの男女関係である!…としゃれ込めれば良かったが、お互いそんな18禁的な情熱は持ってないのでこれも除外。


それによく見れば布団の周囲には人の気配もなく、それでいて周囲が、家そのものが左右にグラグラしているようにも見える。特に電灯がやる気なさげにブラブラと揺れている


導き出される結論は一つ



地震だ。



そこから私の行動は早い。

布団から転がり出る。そのまま布団から這い出せば取れる位置にセットしてある安全靴を装備しつつ、ブレイクダンスまがいの動きで膝立ちを経て立ち上がる。ここまで15秒。これで足元は安全。雨露を防ぐことを放棄し災害に乗じて人間の足を引っ張ることに邁進する悪質ネット民を逆擬人化するとこうなるというガラス片など踏み潰してくれる!


そのまま小走り、地震のドキュメンタリー映像では歪んで開かなくなっているというDQNメンタリティー、すなわち反抗期の心を宿す玄関には走らず、最初から庭につながる窓を開けて庭に飛び出す。もちろんその道中で防災バッグも回収して背負っている。


ここまで50秒


ここからは走りだ。

あとは上から落下物か天罰が降ってくる前に避難場所まで走り切れるかが余生を分ける!


そして75秒


避難場所の公園にたどり着けた。勝利である。この広い公園は無計画で税金と土地の無駄遣いなど非難が絶えないが、その広さゆえに陸路が寸断されたりしても消防署とか自衛隊とかのヘリコプターも降りてこれる優れものなのだ。



これが自然の意思であるならば、この戦いに、勝利はない。


だが私たちが生きている限り、敗北もまた、ありはしないのだ

突如として襲いかかり、甚大な被害をもたらす「天災」にも負けず、天災のように去ることなく毎日のように人々を襲う「労働」にも屈せず、

未来へ命をつなぐこと、それこそが、私たち命持つものにとっての勝利なのだから!!

 


そして独りよがりで身勝手な勝利宣言を経て…


「私はいま、事件の現場に来ています」


ー【悲報】鬼手久留美、いろいろ言っといて結局誠司(彼氏)を見捨てた事件【負け越し】ー

の今に至るのだったー


少し経って。とりあえず自宅に帰ることにした。


体感震度は7なのに町は無事だった。

そもそも正確な震度は3だった。

自分が揺れに翻弄されたから自動的に震度は7である。だから街も大変だというのはおかしな話だし。このまんまひっこみがつかないからと公園で一夜を明かすと翌朝にはラジオ体操に集まる近所の人に目撃されて「ホームレス社会人♀」として写真や動画を撮られてサブスクと再生数と高評価の材料にされかねない。

とにかく!


地震のせいで彼氏を見捨てたビッチに身を落とした私はどうすれば良いのか?この防災バッグにはかなりの量の食料もウォーター(当然重い)も穴を掘るための三つ折りバトルスコップ(スコップ格闘教本付き)も入っているが、「うっかり彼氏を置いて逃げた時の256の言い訳集」なんて入ってない。そもそも言い訳が咄嗟に何通りも出る時点で信用はゼロ。まさに詰みである。



我が家に戻ってみると、開けっぱなしの玄関と窓を除いて全く事件の前の姿を保っていた。

そして、家まで歩くうちに希望も見えてきた。震度3はそもそも「眠っている人の一部しか目を覚まさない」ほどの揺れなのだ。


たまたま私が震度3程度で目覚めるビッチ改めウルトラレア女というだけであり、それ以外のコモン人間どもは誠司も含めいつも通りの営みを送っていた可能性は極めて高い。

ならばこのまま、いつの間にか玄関に脱いでいた安全靴を片付け、背負った非常用バッグを元の場所に戻し、自分の布団に潜り込めば全ては解決する。


災厄に勝ち、彼氏を見捨て、だが全てを闇に葬る、雨は降って地は固まって勝ち越しである。ダメージを受けても肝心なところでコントロール。自分で言っちゃうのもなんだがこういう時の控えめにみて米空母エンタープライズに勝るとも劣らない我がダメコン能力には本当に惚れ惚れする。


しかし、家の中には私より先に非常用バッグを片付ける人影があった

我が彼氏の誠司であった。(ちなみにフルネームは山口誠司)


「「えっ!?誠司(久留美)おまえ、どこに行っていたんだよ!」」


「1人で逃げたなんてとんでもない私は先に動いて避難所がやられてないか確認しに行っていたんだから…そういう誠司だって1人で玄関から逃」

「1人で逃げてなどいないむしろ俺はお前より先に避難所の学校までの退路を確保しに行っていた」


久留美も誠司も二人ともいざという時にはお互いより我が身を優先するタイプだった!

バラバラになってもギリギリにはならない。一緒にいたいと思う限り、こうやって二人の関係はこれからも続いていく。とはなんだったのだろうか…?


防災バッグも片付け、(久留美が)公園の泥付き安全靴でつけた家の汚れも綺麗にし、いつもの時間が戻ってきた。


「もしかすると私たち二人がバラバラになったのならまだギリギリじゃないのかも?」

「いやいやいや、ギリギリの時だけバラバラにならないって関係もなかなかアレだと思うぞ?俺たちは戦場とかジャングルに行って初めて生きる幸せを感じられる系の人だったのか?」


「あの手の人たちって平和な世界で生きるのがくだらないってことは全くなくて「自分はたまたまヒマラヤや南極に行かないと幸せを感じられないだけで、もしも部屋の中で幸せになれるのだったら、それに越したことはない」らしいけどね」



「とにかく!…どっと疲れた。なんか足もガクガクいってるし」

「私の視界もユラユラしてるよ、部屋の電気なんかヘドバンしてるように見えるし」


「…もしかしたらこれって私たちが疲れてるんじゃなくてまた地震が来たのかも?疲れたにしては地面から突き上げるような縦揺れも感じるし」


「言われてみれば少し前にまとめ買いしてまだ手をつけてない進○の○人の全巻もドサドサと本棚から落ちているしな、こりゃあもしかすると…」


「私たちはおしまい?なんてね!あっはっはっはー」


ゴーーーーッ‼︎


「「ぎゃーーーーーっ!!」」


とりあえず、本当にギリギリになった時は二人はバラバラにならなかった‼︎


蛇足

ーもしも自然界にレビューがあるならば


地震(星1・低評価)

地震には余震(星3)と本震(星5)がある時もあるといいます。今回はそれにしたって自然の摂理に従いすぎなので低評価です。

おまけに人が地震で壊れかけた彼女との関係を修復しようとした時にもう一発発生するというタイミングも×、おまけに振動で散らかった部屋が1週間経ってもそのままなので残念ながら星1です。

山口 誠司

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大地鳴動 ギリギリ×バラバラ 〜誠司(♂)と久留美(♀)〜 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224

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