第7話 これが『転生したら○○だった』ってヤツか
ダンジョン最奥に響く声。
それは、鏡に映った自分の姿が異形のモノだった、もとは普通の冴えない中年男だったクロスの魂の叫びだった。
クロスは信じられないとばかりに鏡を見ながら全身をまさぐる。
結果、鏡に映る異形の物体は完全にクロスの動きをトレースしていた。
「……ハハッ……変だなあ、とは思っていたんだ……どう見ても鬼、だよなあ……」
『鬼』といっても、『だっちゃ』口調の宇宙人のような可愛らしいモノではない。ゲームやアニメに出てくる『オーガ』のようなバケモノである。
ダンジョン内に強制的に転生させられた後、ドラゴンとの戦闘(?)もあって詳細には確認できなかったものの、何気なく触った自分の身体にクロスは違和感を覚えていた。
マッチョなのと肌の色はともかく、顔を触ると唇の外に堅い感触があり、頭を触れば複数の突起物がある。何であるか想像はできたが口に出したくない、そんな気持ちだった。
だが、今こうして目に見えるようになると、もう逃げられない。
人間(?)の身体で他人が見て一番目立つのは『顔』だそうだ。クロスの場合、その中でも特に『口』が目立っている。
まさに『耳まで裂けた』と言う形容がふさわしい大きな口。しかも、『輝く八重歯』なんて可愛らしいモノではなく、肉食獣を思わせる立派な『牙』が上下に生えて、口を閉じても外に飛び出していた。これでよく流暢に人間の言葉が話せるなぁ、噛み合わせはどうなってるんだとばかりに、試しに最大に口を開いてみた。
結果、クロスは自分の顔に恐怖を抱いた。
偶にネットで『口に拳骨を入れてみた』系動画が投稿されるが、あんなものは目じゃない。人間の『アタママルカジリ』が言葉通りできそうなほどだった。
次に目立つのが『角』。異世界ではどうか知らないが、少なくとも日本人には生えていない。自分たちと違う部分が目に付いてしまうのは世界共通だろう。
クロスの場合、角は左右2対、額に日本人が想像する鬼っぽい短めのが2本と、側頭部から『ミノタウロス』か『牛魔王』か、はたまた『バッファローマン』か、とでも言われそうな立派な曲角が生えている。長短どちらも漆黒の光沢が品格を表しているようだ。
四足の牛や鹿なら攻撃にもってこいの角だが、二足歩行の体型では一体何のための使われるのだろうか? 牛のように角で突撃はしようと思えばできないことはないが、視界が完全に下を向いてしまい相手から目を離すことになってしまう。危険極まりない。強そうに見せるためだけのものだろうか?
ちなみに髪の毛はある。青黒い顔に乾いた血のように赤黒いザンバラ髪。目立つと言えば目立つが、角に比べれば地球にもありそうなので特に言及しない。
もう一つクロスの顔で目立つ部分があった。
それは『耳』である。
異世界にはいわゆる『ケモ耳』や『エルフ耳』があり、日本人からすればかなり目立つ。
では、クロスはどうかというと、少しマイナーになるが『ヒレ耳』だった。蝙蝠の羽に似てると言ってもいいが、硬さ的にやはり魚類のヒレが近いだろう。トビウオのヒレを鋭角化させた大きさで、近未来のロボットのアンテナのように左右にそそり立っているのだ。目立たないわけがない。
これも何故この形状なのか、謎である。
目は口ほどにものを言う。
『目』にも特徴が現れやすい。タレ目だとか、糸目だとか。キャラ付けには便利だ。
クロスの場合は『オッドアイ』『ヘテロクロミア』とギリギリ呼べるかもしれない。ただ異形が過ぎるだけだ。右目は金眼だが、瞳孔が縦に裂けて見え、ヘビなど爬虫類を思わせる。左目は、こちらのほうが更に異形で、いわゆる白目部分が真っ黒であり、瞳孔部分は真っ赤、しかも横に裂けて見える。色を気にしなければ羊やヤギのようだ。
何ともアンバランスではないか。
鼻は……普通である。
奇を衒って『象の鼻』『豚の鼻』などにされなくてクロスは心の底からホッとしたのだった。
首から下に移ろう。
クロスの生前の体型と比べてマッチョ過ぎるだけで普通と言える。顔が『鬼』のようであるから腕もそうかと思い確認したが、鬼らしい『長い爪』ではなかった。今後伸びたらわからないが、猫やキル○のように出し入れ可能というわけではなさそうなので一安心である。ちなみに足の爪も普通で、靴下を履いても穴が開く心配はしなくても良さそうだ。
そして胴体部だが、幸いなことに翼や尻尾は付いてなかった。顔が鬼で、角やヒレなどのオプションがあったものだから、何が付いていてもおかしくないなどと変な方向に達観し始めたクロスだった。
しかし、余計なものが付いていないことに安心したその心の隙を突いたわけではないだろうが、あるべきモノがついていなかった。
「うおおおおおおっ! お、俺の、ムスコがあああああっ!」
本日何度目かの魂の叫びである。ドラゴンは泡を吹いている。ヤメテあげて、ドラゴンのHPは0よ!
ちなみに、クロスが転生したときは文字通り裸一貫だった。顔や頭は仕方がないとして、股間のイチモツは気付いて当然なのではないか?
クロスは『生きるか死ぬかの状況で気が回らなかった』と供述していたが、只の現実逃避であろう。
だが、鏡に映った全裸の男は、もう言い訳できない状況だ。いや、『男』と呼んでいいものだろうか? 『漢女』と書いて『おとこ』と読むのか『おとめ』と読むのか、クロスの知識にはない。
それはともかく、自身の身体の観察が一通り終わった頃、まだ正気に戻らないが、中級神フェリアスから再び呼びかけがあった。
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