第2話 煩悩かよ!?


「じゃあ、納得したところで、こちらのヒトから転生していきますねー。え? はいはい。赤ちゃんからです。いきなり成人スタートでは一般常識が身につきませんからねー。野良の転移者とは違うってところを見せてくださいよー。あ、前世の記憶は10歳ごろ思い出す設定でーす。これも社会に溶け込めるようにとの神からの恩恵でーす。感謝してもいいのですよー。あーはいはい。騒がない。安心してください。なるべく裕福で周りに危険がない環境を用意してあります。よっぽど運が悪くなければ生き残れるでしょ。だーかーらー、災害とか犯罪なんてありふれてるんですー。皆さんはそのリスクが低いほうなんだってば。わがまま言わない。皆さんの世界に『下手な鉄砲も数撃てば当たる』って言葉があるんでしょ? 少し欠けてもいいように109個も魂を用意したんだから、運命だと思って諦めなさい。記憶が戻る前に死んじゃったのなら、それこそ心配しても無意味でしょ? じゃ、説明はこれで終わりまーす。はい、アナタからね」


(アフターケアはなしか。ますます冗談じゃない)


 男は自称女神の理不尽な言い草に憤慨する。

 しかし、ヒトダマの群れは徐々に数を減らしている。女神的には順調に転生させることができているようだ。


 男は、ヒトダマ状態だからなのか、自由に動くことはできないでいる。だが、群れはだんだんと謎の力で自称女神に引き寄せられていた。


(クソッ、どうにかして逃げなければ……)


 男は何とかしてプルプルを激しくさせる。

 その効果なのか、男はその場に留まることができ、ついにはヒトダマたちの群れの最後尾となった。


(くっ、これ以上は動けないのかよ。しかたない、諦めずゴネ続ければ……)


「ざんねーん。アナタ、一番諦めが悪そうだったから後ろに回してあげたけど、ゴネても状況は変わりませんよー」


(くっ、手のひらの上だったってことかよ。性格悪すぎだろ!)


「えー? 女神の親切が理解できないなんてひどーい。ま、いくら態度が悪くても神罰はくださないよー。私は優しい女神様だからね。仕事に忠実なだけでーす」


 クスクスと語尾にハートマークが付きそうな、それでいて上から目線の態度である。

 男は何も言い返せなかった。


「じゃーあ、最後にアナタが転生する番ね? って、ナニコレ! 109個じゃなかったの!?」


 どうやらゴネたらどうにかなりそうな展開らしい。


(あー、何か問題か? 転生は中止か?)


「うるさい! 黙れや!」


 男がさりげなく願望を口にすると、自称女神は今までの間延びした話し方ではなく、どちらかというと殺気立っていた。

 自称女神は男の相手をするのも面倒と言わんばかりに、どこからともなく、空中に何かを取り出した。


 ぼんやり光に包まれているので正確にはわからなかったが、男には、一枚の紙と一台の携帯モバイルのように見えた。


「……はぁ!? 転生予定者は108人!? ……もしかして、二窓で見てたシブーヤの情報と間違った!?」


(109って、マルキュウのことかよ! っていうか、仕事中に何してんだ!)


 自称女神の独り言が聞こえていた男は心の中で突っ込んだ。


「……いいえ。これは紙媒体を未だに使っているのが悪いのよ! 何この汚い字! 見間違えて当然じゃない! これだから時代遅れの老害は! さっさと隠居でもしろっての!」


 男の心の声に反応したのか、責任転換を始めた自称女神。

 言い方はともかく、内容に関しては男も社畜として同意できる点もありそうだ。


(ま、まあ、どこの世界にも世代間の確執はあるよな。大いにわかるよ。それはともかく、結局のところ転生者の枠が一つ足りないってコトでいいんだな? じゃあ、最後に残った俺は転生しなくて済むんじゃないか?)


「そんなワケにいかないわよ! アナタの世界の管理者に頭を下げて魂をもらってきたのに、いまさら返却なんて恥ずかしいじゃない!」


(仕事してればミスなんてよくあることだ。相手に謝罪するのも今後の関係を維持できると考えれば最悪の選択じゃないぞ? 俺としても、異世界に転生するより地球で普通に輪廻転生したい。生き返るのは諦めるからさ)


「アナタのことなんてどうでもいいけど、私がまるでミスしたみたいに言うのは聞き捨てならないわね!」


(事実じゃねえか! 聞き捨てならないってなら素直に人の話聞いて謝って来い!)


「嫌よ! 私が謝ったら私のミスってことが確定して、査定が下げられちゃうじゃない!」


(査定って……神の世界も世知辛いな……)


「そうなのよ! ということで、アナタにはどうしても転生してもらいます!」


(おい! そうじゃないだろ! 老婆心からいうが、俺の希望とは別として、問題が発生したら上司に報告しろよ! 社会人の常識だろうが)


「人間が偉そうにしないでよ! 私は女神よ!」


(……これは俺が見聞きしたことだが、問題を隠そうとしたり取り繕おうとしたりしても、いずれバレる。そうなると余計に問題が大きくなって収拾がつかなくなるぞ? 悪いことは言わん。上司に相談しろ)


「うっさい! 黙ってろ! 確か、どっかで見た覚えが……」


 男は自分の去就のこともあり、何とか自称女神に翻意させようと説得した。

 だが、自称女神は一向に聞き入れようとせず、必死になって端末を操作している。




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